ここ数年の餌木タコブームにより茨城エリアでも竿釣りが主流になっている。
取材した大洗港の大栄丸でも昨年は手釣りと竿釣りの割合が半々だったが、今年はほとんどの方が竿釣りになり、よく乗る餌木の色を探したり、アピールアイテムを付けたりして楽しんでいるという。
釣り場は大洗沖の水深25m前後、海底が砂利や小石でほとんど根掛かりしないから2本餌木でも心配ない。
釣れるサイズは0.3~0.5kg級を中心に1~1.5kg級を交えて好日にはトップ15~20杯前後と乗り活発。
例年11月になると北から渡ってくる2kg以上の渡りダコが釣れるようになるので今後も要注目だ。
茨城では昔から秋~冬にかけてマダコ乗合が出船していたが、同時期に人気のヒラメ釣りの影に隠れて、比較的マイナーな釣り物だったと言える。
しかし、近年の餌木タコブームによりマダコ釣り人口は急増し、大洗沖でも人気の釣り物となった。
「渡りダコ」と呼ばれる常磐特有のマダコが釣れることもあり、茨城は近年注目のエリアとなっている。
渡りダコというのは、江戸前のマダコ釣りに慣れた人には耳新しい言葉だと思う。
マダコにはその一生を限られた海域で過ごす群れと、孵化から産卵まで大きな回遊をする群れに分かれることが知られている。
前者は、「地着き」と呼ばれ、後者は「渡り」と呼ばれる。
長距離移動をする渡りダコの回遊ルート
渡りダコの回遊を図1で説明する。
東日本各地のマダコ漁獲量と抱卵状態の研究から、宮城県から千葉県南部までの長い距離を回遊するマダコの群れがあることが知られている。
産卵場所は、千葉県外房大原から小湊にかけての海域で、産卵は春に行われる。
孵化した幼生は黒潮に乗って浮遊の旅へと出発する(図中①)。
黒潮の北への分流である北上暖水に乗り、北へと移動していく(図中②)。
北上しながら、岸へと向かう分流に乗って接岸する(図中③)。
接岸先は茨城、福島、宮城の各沿岸だが、接岸できずに死滅したり外敵に食われたりする幼生もい
る。
運よく接岸した幼生は、水温の高い浅場でエサを取り、急速に成長しながら夏を迎える。
沿岸で十分に育ったマダコは、水温が下がる秋から初冬にかけて南下を始める(図中⑤)。
これが渡りダコだ。
北の海域から始まった渡り行動は、南下途中の海域からの新しい群れを加えながら、徐々に大所帯になっていくが(図中⑥)、同時に外敵や職漁により数も減っていく。
渡りダコが最後に産卵地に到着するのは、年が明けて春を迎えるころ。
長旅を終えたマダコは自分が生まれた海で産卵し、その一生を終える(図中⑦)。
これに対し、地着きダコは産卵場所で成長し、小海域内で一生を終える。
地着きダコは秋に産卵期を迎えるという。
おなじみの江戸前のマダコも地着きになる。
地着きダコは初夏から釣れるが、渡りダコが釣れるのは冬になる。
大洗沖は11月の後半から年末にかけてが渡りダコの通過時期であり、釣期だ。
渡りダコには良型が多く、時には4kgオーバーの大ダコが交じるのも特徴だ。
カラーやエサ巻き、アピールアイテムなど色いろ試してみよう
出典:
(左上)オモリ80号。餌木2本付けが標準。(左下)タコベイトや白いゴム、エサ巻きとアピールアイテムが盛りだくさんの餌木を使う人も。(右)エサ巻きやティザーを付けて目立たせる
出典:
餌木は3.5~4号の2本付け装飾でマダコにアピール
大洗沖の餌木タコで使う餌木は東京湾と共通でいい。
色はピンク、白、黄、緑などを用意して、交換しながらその日に乗る色を探していく。
オモリは80号を使う。
水深が25~30mと深い場所を攻めること、外洋なので潮が速い日もあることが重いオモリを使う理由だ。
ウネリがある日もあり、その場合もオモリが重いほうが安定して小づくことができる。
竿は餌木タコ専用か、ヤリイカやタチウオ用など胴がしっかりしたものを選ぶといい。
リールは両軸リールを使うが、あまり小さなものだと80号オモリを上げ下げするのに疲れるので、オモリに応じた中型サイズ、またはパワータイプのリールが適している。
小型電動リールを使うのも効果的だ。
とくにウネリがある日などは、巻き上げは電動任せにして、竿を支えることに集中するほうがバラシを減らすことができる。
手巻きでも電動でも、ドラグはきつめに調節しておく。
餌木は3.5~4号のタコ餌木を2本付けるのが標準的だ。
これは餌木を目立たせる以外にも、ハリ掛かりの場所が2カ所に増えて大型をバラしにくくする効果も狙っている。
人によっては餌木を3本付ける人もいる。
餌木にサンマの切り身や豚の脂身などを巻きつけたり、集魚剤を塗ったりする人も多い。
また、餌木から30cmほど上に、キラキラのテープ(ティザー)を付ける人もいる。
好みで色いろ試してみてほしい。
手巻きで釣るならパワーのある中型両軸リールを使う
出典:
ウネリがあるときは小型電動リールがおすすめ
出典:
餌木をしっかりと動かし、マダコの乗りを察知する
図2に餌木タコの釣り方のイメージを示す。
釣り方はいたってシンプルだ。
船下に仕掛けを落とし、オモリで底を小づき続けてマダコの乗りを待つ。取材当日はエンジン流しで、風に向けて糸を立てながら潮に乗せて流していく。
大洗沖のマダコポイントは水深が20~30mなので、キャストは必要ない。
ただし、二枚潮気味で釣っているうちに道糸が斜めに流れていくことがある場合は、水深の半分くらいまで巻き上げて落とす(巻き落とし)と、新しい場所に仕掛けを入れることができ、糸が立って小づきやすくなる。
海底は小石や砂利で、根掛かりは少ない(まったくないわけではない)。
たまに石の間にオモリが挟まることがあるが、道糸をつかんで仕掛けを振るようにすると外れることが多い。
この釣りで大切なポイントは二つある。
一つは餌木をしっかりと動かすこと、もう一つはマダコの乗りを察知することだ。
①タコが乗っていないとき
オモリをわずかに浮かせたら、すぐに竿先から力を抜いてオモリを底に着ける。
このときに、コツコツと石をたたくような鋭角的な響きを確認すれば、餌木は動いている。
穂先をシェイクするだけでは動いていない場合もあるので、オモリの重さを感じながら小づき続けるようにしよう。
②タコが乗ったとき
マダコの乗りは、それまで竿先に伝わってきていた鋭角的な響きが、オモリが泥にはまったように粘るような感触に変わることで分かる。
よく分からなくても、怪しいな、と思ったらとりあえず合わせを入れてやろう。
③合わせの準備
合わせは急ぐ必要はない。
まずは糸を巻きながら竿先を下げる。
これは合わせの予備動作で、合わせたときに竿を動かすストロークを確保するためだ。
④合わせ
マダコの重さに負けず、底から一気に引きはがす強い合わせをするには、下に向けた竿先を、目の高さより上まで一気にシャクリ上げる。
⑤巻き上げ
マダコが乗っていれば、竿がガシッ!と止められ、その後に底からジワリと離れる感触が伝わるはずだ。
あとは糸をたるませないように注意して一定の速度で巻き上げてやる。
日によってはウネリで船が上下することもある。
そのときは竿の操作で揺れを相殺しながら巻き上げる。
ウネリが高い日は電動リールのほうが楽だろう。
海面にマダコが見えたら小型なら竿で抜き上げてやる。
大型だったり、掛かりどころが悪かった場合は、玉網ですくってもらおう。
釣り上げたマダコは網袋や洗濯ネットなどに入れて水を張ったバケツに入れておく。
ベテランはマダコの目の間に刃を入れて絞めてからクーラーに入れるが、揺れる船上で刃物を使うときは細心の注意を払うこと。
10月中旬、取材した大栄丸では大洗沖の水深25m前後を狙い、0.3~1.5kg級のマダコをトップ15~20杯前後と好調が続いていた。
このときに釣れているのはまだ渡りダコではなく地着きダコだ。
11~12月は、いよいよ渡りの大型も顔を見せてくるだろう。
今後は巻き上げるのに苦労するほど重量感がある大ダコにも期待できるようになる。
茨城でも餌木タコはブームになっているが、東京湾で餌木タコの面白さに開眼した方がたにも、ぜひ常磐の渡りダコ、大ダコを釣ってみていただきたい
釣り場は大洗沖の水深20~30m
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(左)小型は竿を立てて抜き上げる。(右)根掛かりが少ないので餌木の数がキャッチ率アップにつながっている面もある。
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マダコが乗るまで小づき続ける
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大洗タコ今昔物語 サンマテンヤと船上食
大洗沖のタコ釣りといえば、これまではテンヤを使った手釣りだった。
タコテンヤと言っても、東京湾のそれとはだいぶ異なる。
120号のオモリを使ったごついテンヤに、エサに生サンマを使う。
サンマを真っ二つに切り、それをテンヤに縛る。
テンヤの市販品は少なく、自作する人も多い、ハードルの高い釣りだった。
それが数年前からほとんどの船で餌木を使うようになって、大洗のタコファンも増えたようだ。
根掛かりが比較的少ないことと、渡りの時期になると型も数も好釣果が出ることが人気の一因だろう。
ちなみに現在は廃れてしまったが、昭和の時代、大洗では船上食が出た。
10時くらいになると船長がご飯とおかずを配ってくれる。
おかずは煮魚やあら汁が多かった。
ある日、タコ釣りで出てきた船上食がサンマの煮つけだった。
タコのエサもサンマ、釣り人のおかずもサンマ。
「これ、タコのエサの残りものじゃないのか?」なんて思いながら食べたものだが、海の上で食べ食事は、ことのほかおいしかったことを思い出す。
昔からサンマエサでタコを釣っていた名残か、餌木にサンマの切り身を付ける釣り人がいるのも大洗ならでは。
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