ヨッシーこと吉岡進がエサ、ルアー釣りを問わず、様ざまな釣り物にガチでチャレンジしていく当連載。
第9回はヨッシーが得意とする一つテンヤマダイをチョイス、中大ダイで盛り上がっている茨城県日立エリアへ釣行した。
日立久慈漁港出船の主な釣り場は日立沖の水深30~50m前後で、パラシュートアンカーを入れて1時間の大流しでじっくりマダイを狙っていく。
サイズは500~800g前後を主体に1kg級がコンスタントに顔を出し、好日には2~4k級の大ダイも交じるという。
1月下旬に釣行したのは周年マダイを狙って出船している大さん弘漁丸。
小泉大輔船長に模様をうかがうと、「底付近は小ダイが多く、中大ダイは底から5mくらい浮いています」とのこと。
船長が向かった釣り場は日立沖の水深30m前後、近くにタチウオ狙いの船団も見える。
当日は朝から冷たい雨が降っていて北風と潮がぶつかり船はあまり流れないが、底付近を狙えば小ダイやゲストも含めてアタリが多い。
そんな中、ベイトタックルを手に宙層にいる中大ダイ狙いに挑んだヨッシー。
Profile
よしおか すすむ
1982年生まれ。
ヨッシーの愛称で親しまれている。
一つテンヤマダイ、ライト系オフショアルアーを得意とする。
ジャッカルソルトプロスタッフ、シーガーインストラクター。
一つテンヤタックル
ベイトタックルの特徴は、スピニングに比べて糸フケが出にくいこと。
糸フケを最小限にすることで着底が明確になり、根掛かりも軽減する。
一つテンヤの釣り方イメージ
終盤、宙層から底狙いへ切り替えたヨッシーはボトムバンプでマダイをゲット。
ボトムバンプは底が暗くてマダイがエサを見つけにくいときに有効で、テンヤで底を小づいて砂煙で誘ったり、底付近で跳ねているエビを演出して、マダイにエサをアピールするテクニックだ。
ヨッシーが、ガチだった。
釣りに対して常にガチのヨッシーではあるが、この日はとくにガチガチになっていた。
寒かったのである。前夜に雪の予報があったぐらい、関東地方は強い寒気に覆われていた。
1月26日、まだ暗い茨城県日立久慈漁港・大さん弘漁丸の船着き場に集まった我われツリガチ取材班は「それほど寒くねえな」「ヨユーヨユー」「これなら半袖短パンでもよかったな」などと、うそぶいていた。
だが、さえぎるものが何もない沖に出ると、さすがに寒風が身に染みる。
いつも陽気で朗らかなツリガチ取材班も、さすがに口数が少なかった。
しかも右ミヨシに陣取ったヨッシーが風を避けるには、みんなに背を向ける格好になる。
沈黙。背を向けるヨッシー。
冷たい北風。ガチな空気が弘漁丸に漂う。
……とは言いつつ、ヨッシーはプロアングラーである。
寒さにガチガチ震えていたわけではない。
いや寒がりのヨッシーのこと、多少は北風に負けていた感は否めないが、それ以上に内心は熱く燃えたぎっていた。
「ここんとこ、弘漁丸では1~2kg級のマダイがボンボン上がってるんだ。おれの狙いは、ズバリそれ。今日は良型一本勝負だよ……」
5時に港を出て、まだ暗いうちの6時10分から釣りが開始された。
水深30m前後のポイントは、基本的にフラットな底である。
パラシュートアンカーを打ち、大きく流していく。
一つテンヤマダイ釣りの魅力は、エサ取りを含めてアタリが多いことだ。
だが今日はなかなかアタリが出ない。
エビがそのまま上がってくるたびに、少しずつ心がダメージを負っていく。
釣り場は日立沖の水深30~50m前後
出典:
こだわるのは宙層か底付近か、 面白さであり、難しさでもある。
「アハハ、釣れましたぁ!」
ニコニコとカサゴを掲げているのは、トモキだ。
トモキは27歳。
ツリガチ取材班で現在最年少を誇る彼は、クロダイの落とし込み釣り業界では知らない人がいない(と思われる) 手練れである。
いつもニコニコと笑顔を浮かべる優しい青年で、最近はツリガチ準レギュラーとして様ざまな沖釣りに挑戦。
「ボク、初めてなんですぅ」なんてかわいいことを言いながら、持ち前の腕でバッタバッタと本命を釣り上げるのである。
とりあえず魚がエビを食ってきた、ということは朗報である。
しかしトモキがもう1尾カサゴを追加したものの、どうにも続かない。
ヨッシーも取材班に背を向けたまま「うーん……」とうなるばかりだ。
「明るくなってきてからが勝負かな……」
ヨッシーは宙層の釣りに徹していた。数日前に釣れた1~2kg級のマダイは底から5mほど上で食ってきた、という情報を仕入れていたのである。
ここは、一つテンヤマダイの面白さであり、難しさでもある。
実際にやってみると分かるが、底付近はエサ取りやゲストも含めてアタリが多い。
だからつい、底付近をネチネチと攻めガチである。
その一方で取材前の週末に弘漁丸で釣れた4.8kgのように、大物ほど意外と上のほうで食ってくるものなのだ。
だが、いざ宙層を攻めるとなると、かなりの精神力が求められる。
海底のように何か取っかかりがある場所にエサを踊らせるのと、宙層のように何もない場所でエサを踊らせるのとでは、竿を握る側の気の持ちようがだいぶ違う。
そして実際のところ、アタリの数も底のほうがずっと多い。
宙層の釣りは、まさに雲をつかむよう。
とらえどころ、よりどころといった基点がなく、しかもアタリが少ないとくれば、どうにも心が保ちにくいのだ。
しかしヨッシーは強い気持ちの持ち主である。
「絶対に良型マダイを釣る!」という強固な意思で、宙層の釣りにこだわり続けている。
このあたりは、さすがプロと言わざるを得ない。
暗いうちはカサゴやソイなど根魚の活性が高かった
出典:
イルカの大群で盛り上がり、 いよいよ本命の気配が濃厚に
その横で、底の釣りにこだわり続けているのが、ライターのタカハシゴーであった。
「最初のうちは、底から2mぐらいまで狙ってたんだよ」とタカハシゴー。
一つテンヤマダイの基本である、着底~竿をいっぱいにシャクり上げる~ゆっくりと再着底、という動作を繰り返していた、と主張する。
しかし、上のほうではまったくアタリがないこと、そしてあまりに寒くて身が縮こまり、大きな動作をしたくないことから、底から50cm程度をネチネチと探る釣りをしていた。
「あっ……!」
鋭い合わせを見せたのは、タカハシゴーその人であった。
それまでさんざん「寒い」「冷たい」「眠い」とボヤいていた彼が、まったく別人のような満面の笑みを浮かべている。
カン! カカカン!
竿先をたたくような硬質なアタリに、本命のマダイであることを確信しているようだ。
「ちょっとちょっと、ゴーさん、それマダイじゃないの!?」
さすがにヨッシーが取材班側に振り返りながら声を上げる。
「う、うーん、どうかなあ」
内心では「これぜってぇマダイだ」と思っているが、ハズレていたら恥ずかしいのでそうは言わないタカハシゴーである。
ほどなくして海面が美しい桜色に染まった。
500g級、食べごろサイズのマダイだ。
「やった、やった! オレの役目はこれで終わりだ!」とタカハシゴー。
取材釣行というのはなかなかにプレッシャーがかかるものである。
万一本命が顔を出さなかったら、再ロケとなる。
日程調整を含め、色いろと難題がのしかかるのである。
とりあえず本命の写真を一発でも押さえられれば、取材が成立してページが埋まる可能性が高まる。
……あくまでも可能性、である。
なぜならこの企画の主役は、あくまでもヨッシーだ。
ヨッシーが釣ってくれることが、我われ取材班のガチの願いである。
とりあえず1枚を釣って極度の緊張感および強い眠気から脱したタカハシゴーではあるが、ヨッシーは彼が底の釣りで成果をあげたのを見ても、相変わらず宙の釣りに徹していた。
続けざまに「釣れましたぁ!」とニコニコしているのは、トモキである。
ハナダイだ。
にわかに海の中が活気づいたと思ったら、空も活気づいている。
海鳥たちの大集結だ。
「イルカだ!」
100頭以上はいると思われるイルカの大群が、弘漁丸の脇をかすめていく。
「すげえ!」
「写真、写真!」
近田編集部員が一眼レフを構える。
「マダイも散っちゃうかな」
だれともなくそんな声が上がったが仲乗りさんが、「うんにゃ、マダイは下のほうにいっからイルカが出ても関係ないよ」と頼もしいことを言ってくれた。
イルカの群れはあっという間に行ってしまった。
一瞬の盛り上がりと同時に、ヨッシーも魚を掛けていた。
しかし、痛恨のバラシ。
本命の気配がにわかに濃厚になってきた。
こうなると、宙の釣りができるヨッシーは強い、のかもしれない。
一発デカいのが出そうな気配が立ちこめてきた。
500g前後のマダイがよく釣れた
出典:
マダイの視界が奪われて 宙層のエサを見つけてもらえない。
イルカで盛り上がった30分ほど後に「あっ……!」と声を上げて合わせたのは、再びタカハシゴーだった。
「底で小さなアタリがあった。少し待ってたら反応がなくなったけど、なんとなく気配がある。聞き合わせみたいに竿先を上げたら、カンッときた。バシッと合わせたよ」
さっきのと同じぐらいのサイズの、本命マダイだ。
「追い食いみたいな感じだったから、食い気はあるのかもしれない。ただ、アタリそのものはあまり多くないよね」
いっぱしのことを言う永遠の初心者・タカハシゴーであるが、トモキも同じタイミングで魚をバラし、「底ドンですねぇ。ほとんど着底の瞬間だけだなぁ、食ってくるのはぁ」とニコニコしている。
当企画の準レギュラーの一人、イチロウこと鹿島一郎さんもバラシ。
やはり底だ。
当日のマダイは、徹底して底のエサを食っているようだった。
ヨッシーが仲乗りさんと会話している。
「あれ、巻き網船なんだよね」
仲乗りさんが、弘漁丸の近くで操業している漁船を指さした。
「巻き網船……」
「タチウオを取ってるのかもしれないなぁ。こりゃあマダイにはちょっとキツイかもね」
小泉大輔船長が、紙コップのコーヒーを振る舞ってくれた。
温かくてちょっと甘めのコーヒーが心に染み入る。
だが、ヨッシーの表情は浮かなかった。
「ゴーさんやトモキくんの釣れ方を見てると、マダイが底にいるのは間違いない。それでも本来なら、宙を泳いでるヤツもいるはずなんだよね。たぶん、潮が暗くて宙層のエサを見つけてもらえないんだ。そういう潮なのか、巻き網漁の影響なのか分からないけど、マダイの視界が奪われているような感じがする」
だれかが釣ると、パタパタッとアタリが続く。
大きく流している船がいいポイントに差しかかると、チャンスが訪れる。
それはいつか分からない。
だから、仕掛けを投入し続ける。
「イチロウ何枚?」とタカハシゴー。
「1枚ッス」
「オレ2枚。じゃ、ここから数勝負な!」
本命を2枚釣って心の余裕ができたタカハシゴーが、イチロウに恒例のバトルを仕かけている。
沖揚がりが近づき、自分が有利なときだけのバトルだ。
集中力がうねりをあげながら高まり、二人とも手返しが異常によくなる。
勝負は、人の心のいい活性剤になる。
追いつけ、引き離せ。
最後の最後にタカハシゴーが1枚を追加し、4枚対3枚でタカハシゴーの勝利だ。
よく分からないままに、いち早く当日のヒットパターンにたどり着いていたタカハシゴーの辛勝である。
イチロウは、「宙層狙いのヨッシーが苦戦しているのを見て、『宙は相当厳しそうだな』と断念(笑)。ゴーさんとトモキの釣れ方で底狙いに切り換えてから、パタパタッと釣れました。もうちょい早く底狙いにしてれば、ゴーさんには勝てたはず。でもまぁ、今日の3枚は上出来です。ゴーさんに負けたのはすげえ悔しいけど(笑)」
そしてヨッシーは宙層の釣りをほぼ貫き通し、最後の流しはボトムバンプで底を探り、小型のマダイとハナダイ、ベラなどで戦いの幕を下ろした。
「厳しかったねえ」とヨッシー。
「とにかく潮が暗くて、マダイに気づいてもらえなかったね。テンヤを大きくリフトさせると全然食ってこない。底にテンヤを置いて待つか、底トントンでようやくアタリが出るという厳しい状況だったね。まぁ、こういう日もあるよ!」
中ダイ、そして大ダイをガチで狙いきったヨッシーの笑顔はすがすがしかった。
港に戻り、おかみさんが振る舞ってくれた温かいお茶とお弁当が心を潤す。
我われが取材に訪れた3日後から、弘漁丸では3.2kgを筆頭に2.8kg、2.2kgとナイスサイズのマダイが釣れ盛っている。
マダイのダブルヒットもあった
出典:
船宿インフォメーション
茨城県日立久慈漁港 大さん弘漁丸
0294・52・3504
備考=5時15分集合。別船はヒラメでも出船
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隔週刊つり情報(2022年3月1号)※無断複製・転載禁止