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[タカハシゴーの親子でゴー 沖釣りをめぐる父と子の冒険と成長の物語?!(第66回)]ライト落とし込みで秋の大祭を執り行うのだ。

隔週刊つり情報編集部

2014年10月11日は、我われ親子の人生を大きく狂わせた日として、高橋家の歴史に大きな爪痕を残している。

我われ親子の間では「10・11(ジュッテン・イチイチ)」と呼ばれている6年前のあの日を境に、すべての景色が変わってしまった。

いつもと違う強烈な引きに唖然・・・一体何が起こった!?

あの日、我われ親子は、いつものように何の気なしに釣り糸を垂れていた。

場所は、西伊豆・戸田である。

波もなく穏やかな湾内に浮かぶ手こぎボートの上だ。

オレと、カミさんと、まだ体も小さかった10歳の蒼一郎が乗っていた。

4度目の戸田でのボート釣りだった。

風もなく静かな空からはトンビの鳴き声が降り注ぐ。

タックルは長年家で眠っていたブラックバスロッドやらキス竿やらだったし、仕掛けもそこら辺で適当に買ったサビキだ。

のんきの極みだったのである。

それまで3度の戸田ボートで釣った魚は、ソウダガツオ、イトヨリ、カサゴ、小カワハギ、小サバ、アイゴ。

それでも我われは非常に満足していた。

だがあの日は、様子が違った。

「アジだ!」

サビキにアジが食ってきたのである。

ボート以外でも、乗合船を含めすでに何度か釣りをしていたオレと蒼一郎であるが、アジを釣ったのは初めてだった。

「アジがいる!」

盛り上がった。

サビキを落とせばアジが釣れる。

引きは小気味いいし、食べてもうまいに決まっている。

オレも蒼一郎もカミさんも、無心でアジを釣った。

そして飽きた(笑)。

あまりに釣れたのである。

何の気なしに「サビキにアジを付けたまま泳がせてたら、なんか食ってこないかな?」「ウヒヒ」と、そのまま放置してみた。

ズドン!

オレが使っていたキス竿が海面に突き刺さった。

「うわ!」と叫ぶのが精一杯で、なす術がなかった。

バツン!とハリスがブチ切れ、一瞬で終了だった。

茫然とした。

「・・・な、なんかいる!」

「なんかスゲェのがいる!」

「なんだろね?」

「わ、分かんないけど釣りたい!」

全員のサビキにアジを付け、そのまま放置した。

ズドン! バスン!

ズドン! バスン!

ズドン! バスン!

ズドン! バスン!

全員の竿が海に引き込まれ、全員のハリスが切られた。

ものすごい衝撃だった。

マジか!こんなことがあるのか?っていうか、何が食ってきたんだ?どうやったらアレを釣れるんだ?

騒然とするわがボートの後ろに連結された別のボートに(戸田は係留ポイントが決まっていて、電車式に連結していくシステムなのだ)ずんぐりとして柔和な雰囲気の男がひとり、乗っていた。

ぬいぐるみのクマのようなその男の竿も、ズバッと引き絞られた。

「切られるぞ、切られるぞ、アレも切られるぞ・・・」

だが男は不敵な笑みを浮かべてリールを巻き続けると、なんとカンパチ(ショゴですね)を釣り上げたのである。

アゴが外れそうになった。

アジが釣れて驚いていたのに、この海にはカンパチまでいた! 

しかも自分たちの仕掛けに食ってきていた!

さらに後ろの方は見事に釣った!

「釣ってやろうじゃねえか!」

燃えた。

帰宅して、一気にタックルと仕掛けを買いそろえた。

さらなる頻度で戸田に通った。

まさに釣りに狂ったのである。

だが、あの日のような「ズドン!」は、それきり2度と訪れなかった。

我われ親子に強烈な釣りへの情熱だけ残して、カンパチは秋の風と一緒にどこかへ行ってしまった。

釣行の写真

2014。西伊豆戸田で高橋親子の釣りスイッチを入れたのは1kgほどのカンパチだった

アホみたいな海のパワー。やっぱコレだよ、落とし込み。

自分の仕掛けの周りで繰り広げられる弱肉強食のドラマ。

何が食ってくるか分からないドキドキ感。

スリリングなヤリトリ。

ライト落とし込みは非常に刺激的な釣りだ。

そして、我われ親子が10・11を境に釣りに狂ってしまったように、人の心の奥底で眠っている釣り魂を叩き起こし、火を点ける釣りでもある。

実は今夏、元世界グランプリ250ccクラスチャンピオンの原田哲也さんとアジ釣りに行ったのだが、偶然青物が食ってきてハリスをバスンと切られ、「あったまきた!ぜってえ釣る!」と完全着火、タックル一式を買いそろえている。

ライト落とし込みは、それほど人を魅了するのだ(ちなみに原田さんは自分のタックルで青物を仕留め、見事にリベンジを果たしている)。

そして9月12日、我われ親子は内房・保田は村井丸のライト五目船に乗り、ライト落とし込みに挑んだ。

青物がよく釣れているということだったが、それなりの緊張感はあった。

いかなる釣りもそうであるように、ラクショーなんてことはない。

釣れるかどうかは海次第で、我われが決めることはできない。

しかも、なんだかんだ言っておいてアレだが、ライト落とし込みに特化した釣行は初めてだ。

「アジを狙っていたら偶然青物が食ってきた」ではなく「青物にアジを食わせる」目的の釣りである。

偶然頼みだったこれまでとは違いそうだった。

違わなかった。

午前6時に港を出て、ほんの数分で到着したポイントで釣りが開始された1投目、いきなりズドーン!が蒼一郎を襲ったのである。

心の準備も様子見もへったくれもあったもんじゃない。

いきなりだ。

凄まじい引きだ。

ズドン、バコンという重みがある。

ライトタックルということもあり、竿が根元からひん曲がっている。

だが、蒼一郎はもう10歳じゃない。

あれから幾多の釣り経験を重ねた彼は、余裕を持って引きをいなしながら、着実に、力強くリールを巻いている。

上がってきたのは、ああなんてことだ、カンパチであった。

40cm程度の若魚でショゴと呼ばれるサイズだったが、蒼一郎にとっては初めての魚だ。

ブリ・ヒラマサ・カンパチの青物御三家ではこれまで唯一釣ったことがなかったカンパチが、朝イチの1投目でいきなり釣れてしまったのである。

もう、父ちゃん腰砕けである。

オレはひとつテンヤマダイの外道としてショゴを釣ったことはあるが、なぜか蒼一郎の元になかなかやってこなかったカンパチが、まさかの1投目で・・・。

しかも蒼一郎は続けざまに追加のカンパチ、イナダ、スズキと釣り上げ、30Lのクーラーは瞬く間に満杯になってしまった。

なんて豊かなことだろう。

オレはすっかり感動してしまっていた。

船中はそこかしこから歓声が上がり続けている。

豊饒の海が、優しく、そして明るく人々を包み込む。

この時期、本来であれば地上のあちこちで稲の収穫を祝うお祭りが開催されたはずだろう。

残念ながらコロナ禍で多くの祭礼が中止になってしまっているが、海のお祭りは元気に執り行われていた。

とりわけうれしかったのは、ソウダガツオとサバの猛攻である。

コマセめがけて突進し、ブンブンと走り回っては凄まじいオマツリを巻き起こす彼らは、若干厄介者扱いされてはいるものの、あのめちゃくちゃエネルギッシュな活気は秋の海の彩りに欠かせないとオレは思う。

蒼一郎も戸田のボートでソウダガツオの引きに感動し、湘南の海でサバの引きに魅せられ、どんどん深みにハマり、今では立派な釣り師となりつつある。

やっぱコレだよな、とオレは思った。

やっぱコレだよ。

アホみたいな海のパワーの一端を感じさせてくれるんだ、ライト落とし込みは。

サビキに付いたアジがバタバタッと暴れ、クッ、ククッ、ククククズドーーーーン!と竿先が引き込まれ、ドカンとした手応えが伝わってくれば、陸の上のあれこれめんどくさいことなんか、魚たちの力強さの前に木っ端微塵だ。

釣行の写真

(左)あまりの楽しさにニヤける蒼一郎(中央)カンパチの時合は朝イチだった(右)村井丸の受付でライト落とし込みサビキを買い込む父

命を懸けた営みと寛容さと美しさ。それはつまり「豊かさ」である。

内房の海中では、秋の大祭が行われていたのだ。

釣っている感触からすると、海底から海面にかけて、アジを狙う青物、アジ、サバ、ソウダガツオがウヨウヨしているようだった。

もちろん時間帯によって多少のムラはある。

何しろ彼らはきっと海中を自由にブンブン走り回っていて、仕掛けに見向きもしないときもある。

でも、アタリが途絶えることはほとんどなかった。

ときには表層でソウダガツオやサバに捕まってしまい、仕掛けが落ちていかないこともあった。

サビキのハリスはクシャクシャになり、お隣さんとのオマツリもあった。

それらすべてを引っくるめて、豊かな時間としか言いようがなかった。

落とし込みは、そこに魚たちいがて、食うか食われるかの命を懸けた営みを行っていることが大前提の釣りだ。

釣り人は魚たちの営みのパワーバランスを利用して、より大きな魚を釣ろうと目論む。

ちょっとずるいような、若干申し訳ないような、後ろめたい気持ち・・・はない。

ドキドキとワクワクしかないのだ。

蒼一郎にしては珍しく、釣れても釣れても釣り続け、タルに収めている。

すっかり童心に返っているのだろう。

トンボを捕まえてシャツの襟に食いつかせ、体を引きちぎった小学生時代の秋の日を思い出す。

シャツにポチポチと並んだトンボの頭は、今となっては残酷な行為と誹(そし)られかねないけれど、そういった無邪気な無駄を許容するだけの豊かさがあることの証でもあった。

オレの実感では、陸の豊かさはどんどん損なわれている。

虫は減り、鳥も獣も減る一方で、おかしなバランスで増え続けるものたちがいる。

それも新しい自然環境のスタイルなのかもしれない。

でも、ただの懐古趣味なのかもしれないが、何かよからぬ予感がする。

海でも同じようなバランスの崩壊が起きているだろう。

釣れていた魚が釣れなくなり、釣れていなかった魚が釣れるようになった、という話をよく聞かされ、なんとなくの不安がある。

でも、少なくとも9月12日の内房の海は、元気いっぱいに青物が泳ぎ回り、アジは追われて逃げ惑っていた。

(おそらく)7000万年ぐらい前から連綿と続いてきた生命のドラマが、竿と糸を通じて感じられた。

こんな経験ができて、オレたち釣り人は幸せだ、と思った。

サビキにアジが食い、それを青物が食うという原則オートマチックなお気楽釣りとはいえ、ライト落とし込みにも工夫の余地はあった。

青物のタナを探したり、いったん仕掛けを上げて入れ直したり、誘い上げたり、落とし込んだりと、ささやかなことをやりながら青物が食ってくるパターンを探した。

でも、正直に言ってしまえば、途中からどうでもよくなった。

釣果を求める釣り人としては失格かもしれないが、美しい内房の景色の中、海からは魚たちの濃密な気配が感じられ、船の上では明るい笑顔が弾け、隣ではわが息子が魚を釣りまくっているのだ。

自分自身の釣果よりも、今、この瞬間の素晴らしい空気の中に身を置けることに喜びを感じ、浸ってしまっていた。

釣った魚は、いつものように蒼一郎がさばき、料理した。

今度は食卓の上で、秋の大祭が始まった。

せめて海は豊かであり続けてほしいと切に願う。

蒼一郎のためになる手記

この日のツボは底から2m上?

今回はライト落とし込みに挑戦。

その1投目、活性が高いようで、着底してコマセを振る前からアジが食ってきました。

追い食いを狙ってコマセを振りながら誘い上げて、底から2mほどで少し止めると、アジが暴れ始め、いきなりズドーン! 

根に向かって一直線、釣れたのは人生初のカンパチでした。

うれしい!

最初からいい感じです。
 
2投目はタナに落ちる前にサバ。

サバが寄ってきたので、コマセを入れる量を減らすと、底まで仕掛けが届きました。

アジがすぐに掛かったので、また2m巻き上げて待つと、根に持っていこうとする強い引き!

これもカンパチです。

サバやソウダガツオが元気ですが、仕掛けが無事に落ちればアジが掛かるので、そのまま落とし込むと・・・。

今度は糸が止まって、合わせると横走り。

上がってきたのはイナダでした。

カンパチは根に向かって一直線に、イナダは横に走ることがよく分かりました。

サバをかわすように船が移動すると釣りやすくなります。

するとアジが掛かって、やはり底から2m上げて待っているとズドンとひときわ重量感のある引き! 

今度はきれいなデカシーバス! 

途中から船長に許可をもらってスーパーライトジギングをやってみました。

コマセについた群れの中にジグを落としても難しいだろうと思い、少しキャストして広範囲を探ります。

根がポツポツとあって、いかにも釣れそうな雰囲気。

底付近を探っているとヒット!

船中でヒラメが上がっていたのでヒラメかと思いましたが、巻いているといきなり元気に。

この最後の魚は大きめのイナダでした。

ライト落とし込みとSLJ、一日中アタリがある癒やしの釣りでした。

釣行の写真

(左)ライト落とし込み炸裂の図 (右) 落とし込みの後はSLJでイナダ

料理の写真

蒼一郎が魚をさばけば猫どももわっしょい!祭りだ祭りだ!

料理の写真

(左上)カンパチ、イナダ、シーバス、サバ、マルソウダの5点盛り!(左下)カンパチのカマ焼き!(右)イナダのカルパッチョ!

今日の一言の図

仕掛けを落とせば何か釣れるし、サバは走り回るしオマツリもあったし、秋らしくてうれしい祭りだったな!

ライト落とし込み&SLJタックル

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