「150で止まったよ」
最新電動リールが唸うなりを上げて毎秒1mほどのピッチで力強く道糸を巻き上げていく。
船底へ道糸が当たるのを竿先を下げて防いでいるから、竿の曲がりを見ることはできないが、PEラインが引き絞られるように緊張している様子から、その重さが窺うかがえる。
道糸を巻き上げきると、富田昌幸さんは下げていた竿を左手でグワッと持ち上げながら、右手でオレンジ色の先糸をつかむ。
そして先糸をつかんだ右手を持ち上げながら左手を下ろして竿を船ベリに立てかけると、仕掛けが船ベリに当たらぬよう前屈の姿勢で両手を一杯に伸ばして取り込んでいく。
ブシュッ!プシュッ!ブシュー!
4、5、6、7、8杯!
背中合わせの大槻朋広さんも同様の多点掛け。時刻は10時。
米丸のミヨシには船上干しの暖簾が2列、完成しつつあった。
主に小田原で活躍するイカ釣りの名手・富田昌幸さんも夏は石廊崎沖へ。
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大槻朋広さんもイカ釣りの名手。富田さんと一緒に、とにかくよく釣る!
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ツノのサイズでこうも変わる
元来、スルメイカ釣りは多点掛けが魅力の体育会系釣り物だが、昨今は思うように釣れない場所が多い。
そこにきて夏の石廊崎沖のスルメだけは毎年好調、だれもが1投多釣の、夏のスルメらしい釣りが楽しめる。
ただし、釣り場は200~250mと深いうえ、潮が速かったり複雑なことも多いので、1流し1投勝負になることがほとんど。
となれば、いかにバラさずに取り込めるか、が釣果に大きく影響する。
ここが、スルメの直結仕掛けのだいご味だ。
この日は前出のイカ名人・富田昌幸さんと大槻朋広さんが左右のミヨシに、左舷胴の間とトモにお客さん、右にレーシングドライバー・高木真一さん、ひとみさん夫妻が入った。
5時に港に集合し、準備でき次第出船、6時に石廊崎沖に到着し、反応を探す。
「はい210m、底のほうだよ」
肥田定佳船長のアナウンスでスタート。
風は東寄りで強く、海も悪い。
道糸は左舷から右舷へと勢いよく流されていく。
「ちょっと上げて。オモリを200号に替えましょう」
即座にオモリ変更を告げて改めて反応に乗せて投入。
相変わらず道糸は左から右へ流されてはいるものの沈降スピードは格段に上がったようで、狙いどおりスルメの群れを直撃、着底とほぼ同時に船上に巻き上げモーター音が響き渡る。
まずミヨシで富田さん、大槻さんが仲よく5杯掛け、左舷のお客さんも2杯、1杯、右舷ではひとみさんもスルメをブッコ抜き。
が、高木さんだけ沈黙。
再び反応を探して投入、アナウンスはほぼ同じで、ミヨシのイカ名人ペアは6杯、5杯で、ひとみさんは2杯。
問題は高木さん。
3投して1人だけゼロということは、なにか理由があるハズ。
と、聞いてみたら、皆さんと違う点はプラヅノ14cmの仕掛けということ。
18cmヅノ仕掛けに交換しようにも、14cmしか持っていない。
これには理由があって、事前に私がプラヅノは14cmでもいいんじゃない?なんて話をしたのだ。
プラヅノの大きさでこうも変わる?と思う方がいるかもしれないけれど、少なくともこの日、石廊崎沖では決定的だった。
なぜなら、船長に18cmヅノ仕掛けを借りて以降、高木さんも周りと同じペースでスルメイカが乗るようになったのだ。
「ご覧のとおり、プラヅノの色について私はあまり、こだわっていないんですよ」
これは、流しのたびにスルメを抜き上げる富田さんのプラヅノの色についてのコメントで、富田さんは青、ピンク、ケイムラ、緑を配置しており、また、プラヅノは見た目で傷が付いたり、光沢がなくなっていなければ再使用するとのことだった。
日本一速いイカ釣り師・レーシングドライバー高木真一さんも石廊崎沖へ。
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ひとみさんはキャリアが豊富なだけに仕掛けさばきもきれいだ。
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Tackle Guide
オモリは150号を基準に、当日のように二枚潮だったり潮が速い場合に備えて200号を持参。
また、プラヅノは直結、ブランコとも18cmがおすすめで、10本が目安。
なお、指ゴムをそれぞれ親指、人差し指、中指にはめて滑りとケガを防ぐ。
直結仕掛けで「一手目」を失敗しない!
サバに強く手前マツリも少ない直結仕掛けは取り込みでバラしやすいのも事実。
とはいえコツさえつかめればそこそこは釣れる。
そのコツが「一手目」。
写真を見ても分かるとおり、富田さんは竿を持ち上げつつ先糸をつかみ、先糸を持った手を上げながら竿を船ベリに「置く」。
そう、決してロッドキーパーに掛けない。
この流れるような一手目ができれば、あとは止めずにたぐり込んでいけばいい。
(上)竿先を海面に向け道糸を竿先まで巻ききってから持ち上げつつ、先糸をつかむ。(下)大槻さんも同様の手順。風下に竿を置き、仕掛けが風で流されないようにする。
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名人1人多点掛けのなぜ?
「イカが多いときは70m幅ぐらいの反応になるよ」と、船長。
当日は底周辺の反応が主で、いつもより少なめとのこと。
イカ名人2人も「いいときには船上干しを作る暇がないほどすぐ次の投入になる」と言う。
そのうえ潮が悪い。
いわゆる二枚潮だと思われるが、200m先のイカの反応(それも足が早い)に当てるのは難しい。
それでも空振りの流しは数えるほどだから、やっぱりイカは濃い。
ガマンして1、2杯、時折4、5杯と数を重ねていくうち、いよいよ宙層で仕掛けを止めるような反応に出くわした。
それが冒頭のシーン。
魚とおぼしきブルブル、ガサガサと伝わる反応のすぐ下で、スルメに止められたと富田さん。
その後も数回、宙層で触りを感じて、多点掛け。
ちなみに宙層で触りを感じたら、富田さんは基本的にその時点で仕掛けを止める。
欲をかいて反応の下まで仕掛けを下ろしてすべてのツノに乗せようとすると反応が抜けてしまうこともあるそうだ。
おおむね、落下中に触ってきたり、止めてしまうような反応は、止めて、ゆっくり巻き上げれば多点掛けになることが多いそう。
と、反応がいいときに多点掛けになるのは理解できる。
加えて、動作が完ぺきなら取り込む数も急伸する。
不思議なのが、触りなく着底し、周りはだれも乗せていないのに、富田さんだけ多点掛けになっているシーンが数回見られたこと。
これは「周りにイカがいても乗らないときに1杯目を掛けると、その仕掛けが多点掛けになる」現象とか。
富田さんは仕掛けが着底したら、巻き上げることなく、底スレスレでマルイカの宙釣りのようにアタリ(変化)に合わせて掛けていく。
動作は止め→合わせ(または空合わせ)→ストンと竿を下ろす。の繰り返しで、アタリがなければ
20mほど巻いて落とし直していた。
こうして最初の1杯を掛けると、それがスイッチとなって周りのイカが乗ってきて一人だけ多点掛けになるそうだ。
う~む、スゴ腕である。
時折雨が降る中、12時半過ぎに終了した当日のトップは富田さんの53杯。
船長も富田さんも「普段の石廊崎沖に比べたら反応が少なく渋かった」とのことだが、潮回りは短く、ほぼ毎投イカが乗る濃密な半日だった。
アレコレ試したり取り込みが上達するのはやはりイカが釣れてこそ。
イカファンの皆さん、南伊豆石廊崎沖のスルメは8月もイチオシですぞ!
富田昌幸さんの直結技
掛ける!
イカマニアの間で現在のトレンドともいえる「掛けに行く」釣り方が軸。
仕掛けを止めて、アタリを察知して合わせる。
掛からないときはそのままスッと竿を下ろす。
①竿先を下げ気味に構えて②あやしければ合わせる③掛けたら即ハンドルを巻き④ゆっくりと巻き上げに移り多点掛けへ
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取り込む!
仕掛けが船下に切れ込む悪条件のなか見事に取り込む富田さん。
船ベリに対して直角に身体を構え、一定のペースで右手で大きくたぐり続け、左手でイカを跳ねるように外してからツノを持って座席上の箱へ入れていく。
干す!
イカ名人=職人たるゆえんが沖干しの手際のよさ。
富田さんはキッチンバサミを使い作業。
ワタは絶対にポイントでは捨てないのがルールだ。
(左)キッチンバサミで素早く作業。(右)竹串に刺して干す。潮回りの間に済ませてしまうのがスゴイ!
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隔週刊つり情報(2020年8月15日号)※無断複製・転載禁止