分かっているようで分かっていない?テンヤとは何か
沖釣りを始めると、様ざまな沖釣り専門用語に出会うが、その中でも「テンヤ」は普段の生活では聞いたことがない独特の響きを持っている。 実は漁具としての「テンヤ」は広辞苑には掲載され…
隔週刊つり情報編集部PR
当たり前のことだが、イカ釣りはハリを口に掛ける釣りではない。
掛けバリを付けた擬餌またはエサにイカを抱き付かせて掛ける。
この点はすべてのイカ釣りで共通している。
プラヅノ、スッテ、餌木、テイラ(エサ巻き餌木も含む)には傘状のカンナが掛けバリとして結ばれている。
その中にあって、東京湾の伝統釣具であるスミイカテンヤだけは異質。
竹の台に扁平型のオモリと逆側に大きな2本の掛けバリが付けられた形は、イカ用の釣具よりマダコやイイダコテンヤとの共通点が多い。
これには理由がある。
スミイカの標準和名はコウイカ。
硬い石灰質の甲を持つイカは、底中心を生活圏とするイカが多く、スミイカはその代表だ。
エサのシャコを付けたテンヤを底に置いた状態で待って抱き付かせるのは、この生態に合わせたもので実に理にかなっている。
そのために底ベッタリにシャコを置けるスミイカテンヤを使うわけだ。
テンヤを底に着けた状態で乗せるため、スミイカが乗った感触は他のイカ釣りほど鮮明には伝わらない。
そこで定期的にシャクリを入れテンヤを跳ね上げることでイカを掛ける。
フグのタイム釣りと同じ原理だ。
スミイカが乗っている場合といない場合では、シャクリ上げたときの手応えがまるで違う。
乗っているときはガシッとシャクリ上げる竿を止められる衝撃が伝わる。
この感触がテンヤのスミイカの一番の魅力といってもいい。
テンヤのスミイカ釣りは、長い歴史を持つ東京湾の伝統釣法であり、相模湾でも一部の地域に伝わっている。
釣りの文献をひも解くと、昭和30年台前半までは手バネの釣りで、テンヤは8~12匁(約8~12号)だったというから驚く。
今よりも軽いテンヤで釣っていたわけだ。
当時の釣り方は片舷の釣りで、船は横舵に風を受けて流し、道糸は水深の倍以上出してシャクるとある。
つまりこの状態ではシャクリ上げたテンヤは垂直に上げられるのではなく、斜め上方に引き上げられる。
竿を戻して再びテンヤを着底させたときも、真下ではなく、斜めにスライドするように着底する。
道糸が太く潮流の抵抗を受けるためだ。
テンヤ釣法の経験者ならお気付きだと思うが、このテンヤの動きは現在のテンヤ釣法にも生かされている。
テンヤを投げて探ることや、シャクリ上げたテンヤをゆっくりと底に戻すことなどは、昔の道具と釣り方によるテンヤの動きを、現在のタックルで再現しているようなものなのだ。
引き継がれている物があってこそ伝統釣法と呼べるのだろうが、東京湾のスミイカのテンヤ釣りは、それが最も分かりやすい形で残されている。
ゆっくりテンヤを着底させることにより、底近くにいるスミイカにシャコをアピールする釣り方に、今も昔も変わりはない。
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現在のスミイカのテンヤ釣りの道具は、全長2.1~2.4mの専用竿にPEライン1.5~2号を巻いた小型両軸リールをセットしたものが標準。
フロロカーボン4号前後のリーダーを1.5mほど直結しテンヤを接続する。
スッテを付ける場合はテンヤの上30~40cmの所から枝ス3号5~7cmを出して結ぶ。
テンヤだけで釣る場合は、マダイの一つテンヤと形の上では同じになり実にシンプル。
竿とテンヤの間に何もなく、極先調子の竿であるため、竿の動きはそのままテンヤに伝わる。
シャクリの基本動作をイラストで紹介したが、竿を持つフォームが他の釣りとは違うため、初挑戦したときに戸惑うかもしれない。
だが、極先調子の竿で小幅でシャープなシャクリを入れるには、このフォームが大切なポイントになる。
スミイカ専用竿は、8:2~9:1の極先調子であるばかりではなく、リールシートから竿尻までのバット部が長く作られている。
これは、楽な力でシャクリが入れられるように、カウンターバランスを取っているためだ。
テンヤをシャクリ上げる幅は底から30~50cmでよく、シャクリ上げる意識が大きすぎると、どうしても強く大きすぎるシャクリになってしまうので気を付けたい。
とくに20m前後の浅いポイントでは小幅でシャクることを意識したい。
テンヤの掛けバリは大きくカエシもないので、合わせが効かなかったり、外れてしまわないかと心配になるかもしれないが、1杯スミイカを掛ければその心配は解消されると思う。
乗りの手応えはそれほど大きい。
フワフワとかジワッといった感触ではなく、いきなりズシンとくるので、シャクリ上げた竿の角度をそのまま保ち、一定の速度でリールを巻き始めればいい。
極先調子の竿だからこそ、小幅のシャクリだけで合わせが効き、乗りの手応えが分かりやすい。
竿の長さと調子が乗りの衝撃を生じさせ、この釣りの魅力となっているわけだ。
巻き上げは一定のスピードを保ちながらスミイカを海面まで出す。
海面でスミイカが暴れて墨を吐くようなら、道糸を緩めずに少し待つとおとなしくなる。
それからゆっくりと竿を立ててスミイカを持ち上げ、テンヤをつかんで取り込む。
竿を置いてからスミイカの目の下をギュッと握りテンヤを外す。
甲をつかんでしまうと墨を吐かれるので注意したい。
仕掛けを軽く投げテンヤを着底させシャクリを繰り返す。
釣り方はこの操作の繰り返しになるので、乗りがこないと集中力が散漫になりシャクリ方が不安定になりやすい。
そうなると、ますます乗りは遠くなる。
スミイカのテンヤ釣りでは、この悪循環に陥ることが最も釣果に影響する。
そうはならないための手立てを、実際の釣行に沿って取り上げよう。
東京湾奥金沢八景の一之瀬丸に釣行したのは11月1日。
快晴で風は弱くベタナギが約束されたような絶好のスミイカ日和だった。
テンヤを底に着底させてシャクるには、海上は穏やかなほうが竿を操作しやすく、シャクリによる合わせも中途半端になりにくい。
出船前にスミイカ船を担当する渡辺直人船長は、テンヤの釣りが初めての人に釣り方、シャコの付け方のレクチャーをしてくれる。
この説明が実にていねいで分かりやすい。
竿の持ち方、シャクリの動作、取り込みの注意点など、初めてではなくても釣り方に迷っている人ならば、聞く価値は十分にある。
説明の中で印象的だったアドバイスがある。
テンヤの釣りはメンタルに左右されることが多く、乗りがないとシャクリの動作に迷いが生じます。
そうなると余計乗りません。
どうせ乗らないと思ってシャクるより、次は乗ると思ってシャクるほうが、実際によく乗るものです。
自分を信じ絶対乗ると思ってシャクってください」そのとおりだろう。
これまでの経験から、乗りがないときとは、シャクリ方に迷いがあるときが多い。
常にトップ争いをしているベテランたちのシャクリは、どんなときにも同じようなフォームに見えるものだ。
12人の釣り客を乗せ7時に出船。
中ノ瀬の水深20m前後のポイントで開始の合図が出たのは40分後だった。
台風の影響からか、やや濁りがあるが潮流はそれほど速くはない。
この日は午前8時前に満潮、午後1時過ぎに干潮となる中潮だったので、開始したのは潮止まりの時間になり、釣っている時間帯はほとんど下げ潮になる。
スミイカ釣りでは昔からお世話になっている越田さんが左舷ミヨシの張り出しに入り、私はその下の席。
船中ではスッテを付けている人が12人中5人。
後の人はテンヤだけで釣っている。
東京湾のスミイカが開幕して1カ月弱。
数はまだのびないが、大型が交じって釣れるのがここ最近の模様と船長は言っていた。
潮が少し動き始めた8時半前から船中でポツポツとスミイカが上がり始める。
なるほどこの時期としては良型が目立つ。
中には500gを超える大型も交じっている。
ただ、一度の流しでバタバタと入れ乗りになることはなく、スミイカは固まっていない印象を受ける。
テンヤの釣りの大敵であるサバフグはたまに掛かってくる程度で、それほどうるさくないことは助かる。
船は北寄りに向いているので、乗りはトモ側にやや偏っているものの、初めの1杯がミヨシの越田さんだったように、ミヨシ寄りにもスミイカの乗りは到来している。
一人また一人とスミイカを取り込み、まだ型を見ていない人には、テンヤ釣り特有の試練のときが訪れる。
テンヤの色やシャクリ方に迷いが生じるときだ。
周りの人に乗りがあり自分に乗らないと、どうしても焦ってしまう。
他の釣りでもあることだが、同じ動作を繰り返すこの釣りでは、とくに焦りが乗りの悪さに直結してしまうから面白い。
昼まで型を見ていない私を含め3名が、この試練と向き合っていた。
打開する方法は、船長が言うとおり自分を信じてシャクリ続けるしかない。
多くのトップアスリートが口にする、「自分を信じて結果を出す」とは、スミイカのテンヤ釣りにも当てはまる。
幸いにも昼過ぎに私に1杯、残りの人にも2時前後に乗りが訪れ、船中12人全員がスミイカをキャッチし、トップは8杯、次いでミヨシで奮闘した越田さんが7杯、平均4~5杯という結果となった。
数はやや物足りないが、平均サイズは300~400gと型がいい。
これから年末に向かいさらに大型化し、群れが固まれば数も上向くと予想できる。
浅場なら広く探れ、40m以上の深場に落ちてからは、底にテンヤを着ける感触が分かりやすいテンヤの釣りの利点が生かされる。
「次は乗る」と自分を信じてシャクってみたい。
完成品のスミイカテンヤは船宿オリジナルや市販品を利用できるが、自作する人も多く、各部分にその人なりのこだわりが出る。
【隔週刊つり情報(2019年12月1日号)※無断複製・転載禁止】
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