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[タカハシゴーの親子でゴー(第53回)]沼津の夜タチウオで夏のオモシロ体験

隔週刊つり情報編集部

キャッホーイ!ドボーン!!

白くて強い日差しが照りつける沼津・江えのうら浦港には、叫び声をあげて岸壁からダバダバ飛び込む子どもたちがいた。

こんがりと灼けた肌に海水がまとわりついて、滑らかに輝いている。

澄んだ水の中に潜り、浮かび上がり、岸に上がり、また飛び込み・・・。

せわしなく動き回り続ける彼ら/彼女らは、太陽から降り注ぐエネルギーを全開でほとばしらせている。

すげえ・・・。

遠目で眺めているだけでも子どもたちのパワーに圧倒される。

そして、こう思っていた。

オレも飛び込みてぇ・・・。

オレの中にいる子どものオレがウズウズしている。

なのに、なぜオレは飛び込まないんだ?

着替えを持って来ていないから。

人目があるから。

これから船に乗るから。

あ、そうだった!

オレは沖釣りをしに来ている。

目的遂行に際し、できるだけのムダを省き、最大限に効率を高めるべきではないか。

海に飛び込んでいる場合じゃない。

オレはオトナなのだ。

・・・本当か?

だいたい、千葉・外房くんだりからすさまじい渋滞に飲み込まれたり、財布のヒモが緩みまくる魔宮・釣具のイシグロ沼津店などを経たりしながら、はるばる沼津の海までやってきている時点で、効率のネジなんざ弾け飛んでいる。

ああ、それにしても本当に素晴らしい。

子どもたちがバッシャンバッシャンと海で遊んでいる姿に、目も心も洗われる。

自分の中の子どもがズゴゴゴゴッと動き出して、簡単に言えば元気になるのだ。

子ども万歳!

よ~し、夜タチウオ狙いの伊勝丸にもじゃんじゃん乗るといいぞ、子どもたち!!

じゃんじゃんじゃんじゃん、じゃ・・・、なになに?

何人乗るの!?

さらにママさんたちも!?

なになに?

いったい何が起きるの~ッ!?

彼らが発見したのは操舵室にある魚群探知機だった。

8月7日の伊勝丸は、子どもパワーに完全に占拠されていた。

伊海幹雄船長の長男史一くん(小6)が所属するバレーボールチームの夏休み特別レクリエーションとして、「みんなで夜タチウオ釣りをやってみよう~!」という集いなのだ。

我われはそのイベントにお邪魔して、隅っこのほうでちょっと夜タチをやらせていただく、というスタンスである。

夕闇迫る中、ママさんの運転するクルマに乗ってワラワラと港に集まってきた小学生たち。

さらにママさんたちも付き添いで乗船し、伊勝丸はさながら運動会のような賑やかさである。

「ねーねー腹減った~」

「ねーねーまだ釣りしないの?」

「ねーねー早く釣ろうぜ~」

「ねーねーお菓子ないの?」

といった具合に、出港前から早くもねーねーのオンパレードなのである。

シマノやらジャッカルやらのタックルでバッチリと決めている蒼一郎とオレ、そして沖藤編集長が完全に浮いている。

「え~取材?取材なの?取材って、雑誌に載るの!?なんだー、だったらもっとちゃんとメイクしてくればよかった~」圧倒的ママさんズパワーである。

ママさんズは釣りをすることなく、子どもたちの面倒を見つつ、ほぼ井戸端会議だ。

陸から離れた夕涼みの解放感で、おしゃべりに花を咲かせる。

江浦港を出てわずか5分足らず。

17時35分になんとなく釣りが始まると、17時38分には「釣れねえじゃん!」と男子どもがすでに飽きている。

「場所変えようぜ」と。

たった3分!

釣行の写真

(右)置き竿でタナを決めて待つ作戦。でもハンドルを回したり、誘いたくなるんだよね

うんうん、小学生男子はこうでなくちゃな!!

だいたい、オレの中の子どもも同じことを思っているのだ。

釣り開始直後の1投目からアタリがないと、心のどこかで「なんだよ釣れねえじゃん!」と毒づいている。

一応はオトナだからグッと堪えて、「これぞ釣りであることよ」とかなんとか自分に言い聞かせて、「この苦境での工夫にこそ釣りの醍醐味がうんぬんかんぬん・・・」と頑張るわけではあるが、本音では釣り糸を垂らした瞬間に釣れてほしい。

とっとと釣って、ジッとなんかしていないで、すぐ次のことをしたい。

ドタバタジタバタと動き回りたい。

見てくださいよ、タチウオがすぐに釣れるものじゃないと理解した小学生男子どもは、さっそく船内をウロウロし始めた。

とはいえ、伊勝丸はそんなに大きな船じゃない。

探険の余地はほとんどないし、そこはやはり海の上、危ないこと、やっちゃいけないことがたくさんある。

彼らが発見したのは、操舵室にある魚群探知機だった。

これだ!

これを覗き込んでいる分には危なくないし、怒られないし、船の上からじゃ分からない海の中の様子がパーフェクトに映像化されている(と、彼らは無邪気に信じている)。

モニターに映ってるものの意味なんか分かんないし、イワシなのかタチウオなのか仕掛けなのかなんて知ったこっちゃないし、今の状態なんだか少し前の状態なんだかもどうでもいい。

何か映ってりゃ、彼らにとってそれは魚だ。

タチウオだ。

大騒ぎが始まった。

「50mに魚いる!」

「50m!?」

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・・・ああすっかりお伝えし忘れていたが、小学生男子どもはレンタルタックルを使いテンビン仕掛けのエサ釣りをしている。

蒼一郎は勝手知ったるジギングで、オレは人生初のサーベルテンヤでのタチウオに挑戦だ。

つまり子供たちは基本的に置き竿で済む仕組みだ。

タナさえ合っていれば、タチウオが釣れる可能性はある。

そういう意味では、だれかが魚探を見張り、何か映った瞬間にその水深を叫ぶシステムは、理にかなっていると言える。

ただし「50mね!?」と真顔で確認してはいるものの、本当に50mにエサが漂っているかは定かではない。

それに何しろ連中は飽きっぽいので、すぐにリールに手がいってクルクル回したがる。

落ち着きのない手遊びの道具としてリールほど適したものはないのだ。

きっと海中でエサは上がったり下がったりして、タチウオは食いつこうにも食いつけないに違いない。

これで釣れたら、そりゃあ奇跡というものだ。

・・・ん?

ということは・・・!?

小学生男子どもは瞬時に 真剣度が増し、瞬時に飽きていた。

(右)スイカが出てきても、タチウオが釣れても、セミが飛び込んできても、船上は賑やか

当「親子でゴー」に限らず、つり情報の取材に偽りはない。

本当に釣れなければ釣れたことにはならない。

愚直なまでに正確な釣果にこだわっているのである。

・・・ということは!

今回もし釣れなければ、再取材の憂き目に遭うのだ。

いや別にそれはそれで釣りの機会が増えるだけなので一向に構わないのだが、大渋滞と魔宮をくぐり抜けて沼津までやって来たからには、手ぶらで帰りたくはない。

ちゃんと取材成立万々歳万事OK森羅万象万里の長城人間万事塞翁が馬といきたいではないか。

賑やかでめちゃくちゃ楽しい船内にあって、オレと蒼一郎は、今までにない緊張感にうち震えていた。

「こりゃ、やばいな」

小声で蒼一郎に言うと、こっくりとうなずいた。

彼も察知していたのだ。

オレたちが釣らなきゃどうにもならないということを。

ああオレたちは今まで、乗合船というものにすっかり甘えていた。

乗合船にはたいていベテラン的人物が乗船していて、どんな状況でもいち早くターゲットを釣ってくれていたのである。

その1尾をヒントにして、コッチは自分の釣りを組み立てればいい。

経験たっぷりの腕利きぞろいの乗合船で、オレたちはヌクヌクと安心していられたのだ。

だれかが釣るだろう。

だれかが釣ってくれればそれを参考にすればいい・・・という甘えは、しかし、今回まったく通用しなかった。

何しろ同船しているのは、ワチャワチャしている小学生男子、食べることに夢中な女子、そしておしゃべりが止まらないママさんズなのである。

伊海船長も、仲乗りとして同船した大船長も、子どもたちのケアで手一杯だ。

(左)アタリがなくなったらスイカ投入(右)スイカを食べながらタチウオのアタリを待つ

こんなことは言いたくない。

オレたち親子は、釣りに関してまだまだヒヨッ子だと自認している。

でも言わせてください。

だれも頼れないじゃないか!

オレのオヤジが死んで、もう17、8年になろうか。

あのときオレは「ああ、もうだれも頼れない」と思った。

頭上にあった傘がいきなりなくなって、雨がダイレクトに当たるような心許なさを感じた。

あのときと同じくらい、いや、あのとき以上に、伊勝丸の上でオレは「だれも頼れない・・・」と思っていた。

いや正直、それほど思い詰めていなかった。

オレには頼れる息子──オレよりずっと釣りがうまい蒼一郎がいるのだ。

が、不安はあった。

蒼一郎がジギングにこだわっていたからだ。

「エサだろう・・・」とオレは思っていた。

初めての釣り場で、やったことのない夜タチウオに挑むのだから、まずは安全確実安心着実なエサ釣りだろう、と。

だからオレは、初めての釣法で手応えがないながらも、サンマの切り身を付けるサーベルテンヤを使い続けた。

しかし蒼一郎には彼なりの勝算があった。

初めての場所だからこそ、慣れたジギングを選んだのだ。

そして開始早々アタリがあったことも自信にしていた。

状況はシブい。

頼れる者は、蒼一郎しかいない。

これはさすがにダメかもしれない・・・。

だが──。

釣ったのである!

蒼一郎が値千金の1本を釣った。

船中が盛り上がるのなんのって。

「見てごらんすごい歯ぁしてるわよ」

「ほら魚いるじゃない頑張りなさいよ」

「すごいねえ本当に魚いるのねえ」

と盛り上がっているのはママさんズだ。

小学生男子どもは「すわ!」と目の色が変わり、瞬時に真剣度が増し、瞬時に飽きていた。

は、早ぇ。

何もかもが目まぐるしくて、エネルギッシュだ。

釣行の写真

小林陽くんが釣った値千金の一本

そんな中、じっくりと落ち着いて釣りを続けていた少年がひとりいて、素晴らしいことに立派なタチウオを1本釣り上げた。

蒼一郎1本、少年1本。

これにて取材成立である。

ふたりともよくやった!

もっとも、釣れようが釣れまいが小学生男子どもにはまったく関係がなかった。

午後9時、通常より早めに沖揚がりをすると、彼らは「明日は明日で早いんだからねッ!」というママさんズに連れられて、チャッチャと帰っていった。

せめて「夜、友達やお母さんと船に乗って釣りをして楽しかった」という喜びがかすかでも残れば十分だ。

いつか成長したとき、あるいはオトナになったとき、この日の体験がふと蘇って、竿を握りたくなることがある・・・のかなあ?

どうだろう。

分からない。

みんながみんな沖釣り師にはならなくたっていい。

でも、夜、船に揺られて沖に出て、みんなでワイワイと騒いだ夏の明るい思い出が、いつか彼らの人生を照らすことは願いたいと思う。

そして蒼一郎と少年が釣ったタチウオが、記憶の中でギラリと輝いていたらうれしい。

夏、海、魚が、オトナの中の子どもを目覚めさせてくれたら。

蒼一朗のためになる手記

激流に翻弄された初の夜タチ

魚探を見ていると、港を出て1分もしないうちに水深が30~40mもあって、沼津の地形に驚いた今回の夜タチウオ。

5分ほどで着いたポイントも、港から続く堤防の目の前なのに、60mもある場所でした。

一緒に乗った小学生たちはエサ釣り、お父さんはサーベルテンヤ、そして僕はジギングです。

とりあえず何も様子が分からないので、テンポよくワンピッチジャークで探ります。

1投目は何事もなく、入れ替えての2投目、底から数シャクリしたところでアタリました!

でも掛けられず・・・。

アタったのはよかったけど、「アタっちゃった」という感じで、イマイチしっくりきませんでした。

そこで次はアタった深さをネチネチと誘う細かいジャークにすると・・・反応ナシ。

すっかり日が沈んでも変化がなく、船長はアンカーを上げてポイント移動。

(左上)蒼一郎、今日は何を作ってるのかニャ~?(by 足元でおとなしく待つ愛猫チャー太)(左下)ムムッ、蒼一郎、いつにも増して真剣な表情(by 背後で見守る愛猫チャー太)(右上)なるほどっ!氷を 川に見立ててヤナ漁のような雰囲気を作ってたわけですね!(右下)触ってませんよ、触ってませんから!(by 叱られるのを分かっていながらつい手を出してしまう愛猫アビ)

1投目にアタリがあった底から数シャクリの位置でジグを飛ばすようにシャクり、フォールを長めにしたハーフピッチに変えてみると、ガツンとヒット!

厳しい状況だったので、とても価値ある1本が釣れました。

その後はタチウオの反応もどんどん上がって、底から20m近く上に反応があるようです。

そこで、底からタナまではワンピッチジャークで手早く探り、タナが近付いてきたら、さっき釣れたハーフピッチジャークに変えて、食わせを意識。

するとまたアタリ!

でも残念ながら掛かりません。

その後はどんどん潮が速くなって、ますます厳しい状況になりました。

しかも時間がたつほど加速して、竿を大きく持ち上げてフォールを入れようとしても、うまく落ちず、エサも釣りにならなくなり終了。

早いうちにパターンをつかめて、どうにか1本釣ることができて本当によかったです。

潮は流れないと釣れないし、流れすぎても釣れない。かくも釣り人は潮に翻弄されることよ・・・

沼津といえば・・・

沼津の夜タチウオといえば一つテンヤ感覚で楽しめる「サーベルテンヤ」。

イシグロ沼津店では一杉店長を始めスタッフが分かりやすく教えてくれるので、立ち寄って買いそろえてチャレンジしてみよう!

(左上)船用レンタルタックルも多数そろえているイシグロ沼津店(左下)一杉店長(手前)に教えていただく(右上)これがサーベルテンヤのセット例(右下)専用のエサも開発・販売しているから驚き!

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隔週刊つり情報(2019年9月15日号)※無断複製・転載禁止

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