「緑色のライトがいいんだよ、カレイで試してみなよ」
年末の打ち合わせで根岸発行人がうれしそうに言った。
聞けば緑色のライトがヒラメに効くとテレビでやっていたとか。
もうお分かりの方もいると思うけれど、このハナシ、昨年5月にNHKで紹介されたヒラメ養殖に使うライトの色のこと。
簡単に言うと、ヒラメを養殖する際に自然環境に近い光をイケスに照射し続けるとストレスが少なく成長が早いことが実証された。
で、その光というのが、ヒラメが本来生息する海面下数十mに届く緑色の光、というワケ。
つまり、緑色の光はヒラメがリラックスできるものであって、釣れる、釣れないについてはアテにならない。
加えて、ヒラメ釣り場の多くで水中ライトの使用は禁止されている。
本来なら放っておくネタなのだが、営業の高橋恵子が「はい、これ」とデスクの引き出しから数千円もする緑色ライト内蔵オモリを出して「代金は生ビールでOK」と親指を立て、加えて「ヒラメとカレイなら似てるから何か起こるかもしれないぞ」と社内で最も魚類学に明るい編集部尾川も言うものだから、こちらも「もしかしたら」と淡い期待を抱いてしまうのだった。
今年も友人を失わない程度にチャレンジする一年にします。
「サメが寄ってきたらどうするんですか」
1月2日、高津遊船の右トモで高橋剛が至極真っ当なことを言った。
そういえば昨年はホシザメが多くて、仕掛けや道糸をグチャグチャにされたっけ。
「それになんですか、これ」
この「エコスカート」、これまで根岸発行人はアマダイで、私はスーパーライトジギングのホウボウ&アマダイ狙いで効果を実感したことがある。
湾奥のマコガレイ釣りはシンプルが一番と、高橋剛はもちろん隔週刊つり情報でもさんざん書いておきながらキテレツな仕掛けを出すのはちょっと気が引けたが、まあいい。
今年も友人を失わない程度に、様ざまなことにチャレンジする一年にするのだ。
午前8時。
放水路をそれこそ滑るように船は進む。
乗船者は計11名。
スカイツリーが刺さりそうなほど西の雲は低いが、空気が澄んでいて遠望が効く。
船橋沖8.8mでイカリを下ろして釣り開始。
地元であれば、ららぽーとがすぐ分かるほど近い。
おのおの2~3本、あるいは4本の竿にセットした仕掛けにアオイソメを付けて放り込んでいく。
すべてが一段落したころにエンジンが切られて、不意に静かになる。
波が船ベリをたたく音すらしない無風のベタナギだから思わず声を小さくしてしまう。
ちょうど裏、左トモでは毎年ご一緒している小堀さんと山﨑さんのラジオから箱根駅伝の中継が聞こえてきた。
高橋剛はいつもどおり仕掛けを絡ませたり、ロッドキーパーの設置箇所および設置方法ならびに竿受部の傾斜角について迷いに迷いつつ、じっくりと準備して投入完了。
私は前記のイロモノ仕掛けだけをドボンと船下に投下する。
「船長、オモリはベタ底ですか」
「うん。ベタ底」
「トントンしないほうがいい?」
「うん。ベタ底」
湾奥のマコガレイ釣りで船下を狙う場合オモリは着けたまま、船が風で動いたり、潮で引かれるに任せておくほうがいい。
9時過ぎ。
大潮の下げ止まりが10時半だから、このころから潮が緩んでくる。
高橋剛とバイクレースの話をしていると、船長がスッと操舵室から出て行った。
「あ、釣れてる」
気がついたときには右ミヨシの富田さんが海面下にマコガレイを泳がせていた。
左ミヨシにいた勝田さんが船長からタモを受け取りすくい上げたのは、めでたき令和4年の初マコガレイ。
私にとっても今年初めて拝む縁起物だ。
(左)思えば昨年の1月14日に高橋剛が41.5cmを釣ったのだ。(右)そのときと比べ宿にいるミケランジェロ(ミシシッピアカミミガメ)は確実に大きくなっているのだが、見た目には分からない。
出典:
(左)ささやかな正月飾りとフェンスを抜けて、いざ、船へ。(右)自宅や友人宅を眺めながらお神酒とともに釣り開始。祈、海上安全でございます。
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緑色の発光ライト付きオモリとハリにはエコスカート。完全に他力本願な仕掛けである。
出典:
虎穴に入らずんば虎子を得ずと、強がってみる。
船長によれば、マコガレイが食ってくるタイミングは潮止まりであることが多い。
潮が緩んできた9時15分に1枚目が釣れて、潮止まりの10時半はもうすぐ。
船長は潮止まりに備えて小移動し、カケ上がりのきわ、水深8~9mに船を止める。
が、期待に反してだれにもアタリはない。
「マコガレイは待つのみ。潮が止まって食わないなら、動けば食うでしょ」
左トモから小堀さんが高橋剛に声をかける。
すると、潮が再び動き始めた昼前に富田さんがホシザメ、高橋剛がマハゼを釣り、左前では日高さんが小さなマサバを釣り上げた。
でも、できごとといえばそれぐらい。
あとは晴れてきた青空と白い雲を映す滑らかな海面がマグリットの絵みたいだ、なんて話から、映画やお互いの家族の話になって、バイクと仕事の話をしているうちに太陽は南中を過ぎて西に傾いていった。
そんな中で、ふと、高橋剛が立ち上がって竿を聞き上げた。
「あー、今のは怪しかったな。カレイだよきっと。あー、くやしいなあ」
誘い上げたときに重さを感じたのだけど、そのまま竿先を上げ切ってしまったことを悔やむ。
私よりもマコガレイ獲得率が高い彼が言うのだから間違いない。
貴重な、それは貴重なカレイを逃したのだ。
ダメじゃん。
その後は前出の富田さんがフッコを釣り上げたものの、さしたる変化は訪れない。
「ちょっと延長します」
15時の沖揚がりから延長戦へ。
マヅメどきがチャンスであるのはもちろん、船長の試し釣りでも夕方に船橋沖でパタパタッと2枚釣れたというから、ここからが本当の勝負だ。
私も高橋剛も小堀さんと山﨑さんも富田さんも、数年前の日没直前に経験したプチ入れ食いを思い出していたと思う。
が、我われの成功体験は再現されることなく、上げ潮が止まる16時、南風が強まってきたところで沖揚がりとなった。
さて。
冒頭に紹介した緑色の発光オモリと赤いエコスカートについてだが、まったく効果はなかった。
カワハギ釣りでは実績の高いオモリだけに魚を散らしていることはないと思うが、イソメを一度もかじられなかったのには驚いた。
新年早々ずっこけたが、これもやってみたからこそ得られた知見。
そう、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」なのである。
『真子鰈・初釣り虎の巻』富田さんの仕掛けと誘いと船長の言う「潮止まり」
富田浩さんの仕掛けの寸法は図のとおり。
当日は角度に余裕のあるミヨシということで4本の竿を出しており、それらはすべてスピニング。
それぞれ遠くへキャストして一定の間隔で竿を大きく聞き上げる。
その間隔は1本あたりおよそ数分。
ちなみに、高津三郎船長によるとマコガレイが食ってくるタイミングは「潮止まり」。
当日は9~10時と、延長で狙った16時ごろ。
富田さんのマコガレイはその時間帯に食ってきた。
扱える最大数の竿で広く遠くへ投げて一定間隔で手前へ探り続けて少ないチャンスをものにする。
富田さんがピンポイントのタイミングに当てたのは、運だけではない、ハズである。
マコガレイは短時間にバタバタと食うことがあるが、とくに大潮の日は短かったりする。
出典:
釣り始めから沖揚がりまで一定の間隔で大きく聞き上げていた富田さん。
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富田さんがマコガレイを釣り上げたのは下げ潮が止まり始めた時間帯。
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