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東京湾奥金沢漁港出船のシロギス

隔週刊つり情報編集部

庭の雑草どもが一気に芽吹いた。

しんみりした薄茶色に覆われていた大地が、鮮やかな緑に彩られていく。

「もう少し伸びてきたら刈り払い機で一掃してやるぜ!」と思いつつも、春のエネルギーに満たされていく光景は悪くない。
 
今シーズンは冬が冬らしくなくて何となく不穏な空気が漂っていたうえに、新型コロナウイルスの騒動があって、どこか重苦しかった。
 
だが、冷たい土の中で待っていた雑草どもの種には、関係なかったようだ。

ぬるい雨を受けて春の訪れを知ると、ここぞとばかりに殻を突き破り、明るい空に向けて葉を広げる。

ま、もうすぐ一掃しちまうけどな。
 
3月13日の金曜日は、早朝から気温が8度を超え、ゆるやかな南南西の風が吹いていた。

金沢八景の空には薄い雲が広がっていたが、体に日差しが当たるとホワッと温かい。
 
念のため分厚い防寒着も持ってきたが、今日はダウンジャケットの上にレインウエアを羽織れば大丈夫そうだ。

日中はダウンも脱ぐだろう。
 
今日のオレは少しだけ欲があった。

沖釣り入門にぴったりとされるお気軽なシロギス釣りに、なぜかオレは苦手意識を持っている。

過去何度か挑戦し、もちろん優しいシロギスはオレにも釣れてくれたのだが、なんだかしっくりこない。

その苦手意識を払拭したかった。
 
進丸の待合所には、沖釣りに必要なもてなしのすべてが並んでいた。

貸し出し品としてはタックルはもちろん、タオル、長靴が用意され、販売品は仕掛けや簡易雨具などが勢ぞろい。

文字どおりに手ぶらで来ても快適な釣りができそうだ。
 
さらには、テンビン仕掛けと胴つき仕掛けの違いがイラストで描かれて壁に貼られていた。

初心者にオススメと銘打たれている胴つき仕掛けの釣り方の解説は、実に詳細だ。
 
シロギスの泳層は海底から10~30㎝ぐらいにあって、そこにエサがなければ食ってこない、とある。
 
オモリが着底すると、エサはその後を追うように漂い落ちながら、泳層を通過する。

このときが1回目のチャンスだ。
 
ほどなくエサも着底してしまい、こうなるとシロギスは食ってこない。

そこでていねいに50㎝ほど聞き上げると、またエサが泳層を通過することになる。

2回目のチャンスだ。
 
なぁんてことが非常に分かりやすく図示してあるのだ。

エサの付け方などはワームの実物を使って展示してあるから、説得力がある。

アゴをさすりながらフムフムと頷いてしまう。

「心づくし」という言葉が本当によく似合う待合所だ。

心があったまる。

毎回ゼロリセットとは不器用にもほどがあるってもんだ。

お父さんに連れられた少年釣り師を見るのは、いいものだ。

乗船前は緊張と期待とがごちゃまぜになっていて、少年の表情はごちゃまぜになる。

この日は進丸のライトアジ船に小学5年生男子が乗船するとのことで、お父さんは「いや~自分はたぶんずっと面倒見てますから、釣りになりませんよ」と苦笑いしていた。
 
かいがいしくコマセを詰めるお父さんの姿が目に浮かぶ。

お父さんがこんなにも密接に子どもの面倒を見ることって、そうそうないんじゃないかと思う。

親子の沖釣りは、実は子どものためじゃなくて、お父さんのためにあるのかもしれない。

釣り人の写真

朝、ライトアジに乗る親子と

なぁんてことを考えながらふと思い出したのだが、オレは船の上で蒼一郎の面倒を見たことがほとんどない。

小学4年生で初めて船に乗ってからこのかた、彼は放っておいてもすべてをきっちりとこなし、まったく手がかからないまま今に至っている。

・・・ということは、オレはそれだけ自分の釣りができていたはずなのだ。

それなのに永遠の初心者、毎回ゼロリセットとはなんたることか! 

不器用にもほどがあるってもんだ。
 
そしてココが、シロギス釣りに苦手意識を持つ最大のポイントなのだ。

シロギスは、進丸の待合所の親切ていねいな解説に従えば、だれにでも釣れる。

その一方で、キャリアの差が圧倒的に出る釣りでもあり、ベテランと自分との力量差をまざまざと見せつけられてしまうのだ。
 
親ゴーでは過去2回、シロギス&アナゴのリレー船に乗っているが、毎回名人が同船し、凄
まじい釣りっぷりを披露してくださった。
 
淀みも迷いもまったくない、正確にして精密な所作は、ほれぼれとするしかない。

そして自分には決して到達できない領域であることを思い知らされる。
 
人には向き・不向きというものがあって、だれもがなんでもできるわけじゃない。

蒼一郎にすら苦手な釣りがあるぐらいだから、オレなんか。
 
できることもあれば、できないこともあるのよ。

できることだけを頑張っていいのだが、やっぱりできないことをガーンと見せつけられると悔しいのだ。

つまり、オレはまだまだ青い春の真っ最中なのである。
 
子どもができたとき、もっと自分は変わるのかと思っていた。

もちろん変わった部分もあるだろう。

カミさんに聞くと、「変わったところー? んー、そうねー、ないッ!」と言うやいなや、「そんなことより履かない靴下は捨てなさいってば」とブツブツ言いながら洋服ダンスをゴソゴソし始めた。
 
女子は間違いなく結婚して妻になり、子どもができて母になる。

だが男子は、少なくともオレは、完全に男子のままだ。

だからどこかスーパーマン気分で、自分にできないことを認めたくないのである。
 
そして今日も、男子ゴコロは打ち砕かれるわけだ。

釣行の写真

ナギでポカポカ陽気の東京湾

シロギス仕掛け

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坂本さんはスーパー職人的手練れながらとても優しい雰囲気なのだ。

我われ親子は左舷ミヨシに釣り座を構えた。

オレは進丸オススメの胴つき仕掛け、蒼一郎は自作のテンビン仕掛けでワームでの釣りに挑戦している。
 
オレは序盤からつまずいた。

珍しく集中していたつもりだったが、うまくアタリが出せない。

待合所の貼り紙を思い出しながら、懸命に自分を捨て、言われたとおりにやってみているのに、なかなかアタらない。
 
アオイソメを使っているのに、ワームの蒼一郎にジワジワと引き離されていく。

なんだ?なにが起きてるんだ?
 
見かねた大ベテランの坂本浩一さんが手ほどきしてくれた。

この方はバッタバッタとシロギスを釣り上げるスーパー職人的手練ながら、とても優しい雰囲気なのだ。

「できるだけ遠くに投げて、着底したら少し大きめにサビく。着底したら、またサビく。これの繰り返しだよ。着底させたままだと食ってこないからね。アタリがあったら、ゆっくりと聞き合わせすれば掛かるから」

言われたとおりにやっているつもりだが、なかなか食ってこない。

思い出したように釣れるが、こんなはずじゃない。

焦る、慌てる、ワームで順調に数をのばしている蒼一郎が気になって気になってムキー!
 
蒼一郎はワームということもあってか、仕掛けを小刻みに動かして誘っていた。

「それじゃ坂本さんの言ってることと違うじゃんねー」と思いつつ、恐らくは蒼一郎なりの工夫だったのだろう。
 
少し時間がたつとシロギスのアタリが遠のいた。

すでに蒼一郎はツ抜けしており、家族で食すには十分な数だ。

いつもの蒼一郎ならワームのまま最後まで粘り続けてもおかしくない状況だが、今日はニヤリとしながら胴つき仕掛け&アオイソメにスイッチした。

春だなぁ・・・。
 
蒼一郎の心にも、芽吹きのような動きがあるようだ。

ほかをまったく受け付けることなく自分流を貫けるのは若者の特権だが、状況に応じてフレキシブルに自分を変えられるのもまた、若者らしい。
 
そして、そこからはいい勢いでシロギスを掛け始めた。

釣り人の写真

ワームとイソメを色いろ試していた蒼一郎

それを横目にオレは焦る、慌てる、アタリ出ない・・・。

イッタイドウシタノ、シロギスチャン・・・。

「言われたとおりにやろう」とすると、言われたとおりのことしかできないシングルタスクっぷりがオレの欠点なのだ。
 
たぶん海の中はもっと複雑で、坂本さんにしても、蒼一郎にしても、基本をベースに適切な調整をしている。

その機微がオレには分かっていない・・・。
 
ということに気付いてからは、オレはいっちょまえにちょーっとした調整を加え始めた。

サビく量、着底からサビくまでの間の取り方。

そして今まで以上にこまめにエサを替えることも心がけた。

タカハシゴーの船釣りあるある・東京湾のシロギス編

ボルトの写真

ロッドキーパーの締め付けボルトを「たぶん付かない」と思っても、当て木なしで締めてみる

エサの写真

(上)結局アオイソメがグニャグニャになってしまう(下)気づくとウエアに付いていたりする

釣り人の写真

ハリを飲まれたらエラに指を入れ・・・たらハリが指に刺さっていた(あるある名人級)

なぁんてことを言っていられるのも、シロギスがよく釣れてくれる魚だからだ

ヌルヌルヌタヌタと蠢くアオイソメをスマートなキスバリに装着するのは、オレにとって極めてハードルが高い行為だ。

とくに「なんだテメー、ざけんなこのヤロー!!」とばかりにキバを剥いてくる頭をつかむのが難しい。

ジュルリ、ヌタリと逃げられてしまう。
 
そこで「・・・(ボロボロになったアオイソメを眺めつつ)ま、いっか」と交換を先延ばしにしがちだったのである。
 
そういえば、待合所の「正しいエサの付け方」には、中・上級者向けのワザとして「イソメの頭を5㎜ほど切って切り口から刺し通し」と書いてあった。
 
オレは永遠の初心者だが、アオイソメは頭がないほうが付けやすい。

注意事項として「アタリを見逃すとエサだけ盗られる」とあったが、背に腹はかえられぬ。

頭をちぎって(アオイソメごめん!)装着するようにしたら、比較的ペースを上げられた。

従うべきは待合所の貼り紙だ。
 
それにしても坂本さんの釣りには見とれてしまった。

自分流・体を動かす系芸術の定義として「すみずみまで気が配られた動作」が第一だと思っているが、そういう意味では坂本さんのシロギス釣りは確実にアートだ。
 
ほとんど無意識のうちに投げ、サビき、合わせ、抜き上げ、ハリを外し、再投入している。すべての動作が流れるように連続していて、カッコいい。

「カッコいいッス!」と思わず言ってしまうと、「いやあ、そんなことないですよ」と謙遜する姿がまたカッコいい。

すべてを掌中に収めてコントロールしながら、それを自慢することもない。

抑制が効いたオトナの男って感じがしますね。

釣行の写真

名人技は盗むもの。盗めるのか?

あー、書いてて思ったけど、オレにはすべて備わっていない資質だわ。

「親子でゴー」なんて言ってるけど、「子と子でゴー」かもしれない。

いやむしろ蒼一郎のほうがグッと成長しつつあるから、「いつまでも子どもな親と、オトナになりつつある子どもでゴー」かもなぁ。
 
なぁんてことを言っていられるのも、シロギスが基本的によく釣れてくれる魚だからだ。
 
午後になると南南西の風が強まり、ちょっと早めの13時半に沖揚がりしたが、エサ釣りを貫いたオレは32尾、ワームにもトライした蒼一郎は31尾と、ご近所にお裾分けする程度の釣果が得られた。
 
なんだかんだアタリがあって反復練習ができるから、スキルアップもしやすい。

だからといってひと筋縄ではいかず、奥が深い。

うまくなれば坂本さんのようなアーティストになれる。
 
沖釣りシーズンをシロギス釣りから始めるのって、いいことかもしれない。

自分の殻を破って芽を出せるような気がしてくる。

気だけでも、せめて、ね。

【蒼一郎のためになる手記】誘い方とイソメとワームの食いの違いとワームの色の不思議な関係

シロギスはエサなら確実に釣れると思っていたので、あえてワームから始めました。

前にやったとき、ワームは胴つきよりテンビン仕掛けのほうが調子よかったので、テンビン仕掛けを使いました。

2inのワームを付けてキャストして船下まで誘います。

意外と潮が流れて、仕掛けが落ち着かず釣りづらいので、早めのテンポで底から離し、また着底させて・・・を繰り返しました。
 
船下まできたところで底をトントンと小づいていると、アタリ! 

早い段階でワームでシロギスを釣ることができました。

小づくことで発生する砂ぼこりや音に反応しているようだったので、底トントンを続けていると、しっかりと食ってきます。

ただ、反応するシロギスは一部なのかな、という感じも。
 
そこでアオイソメに変更。

軽く投げ、潮が流れているようだったので、ショートピッチジャーク風にオモリで底トントンしながら誘うと、そのパターンがドはまり! 

毎投毎投アタってきます。

こりゃ、底はシロギスだらけ?
 
そこで今度はテンビン仕掛けの下バリにワーム、上バリにアピール用にアオイソメを付けてみました。

すると、掛かってくるのはアオイソメばかり。
 
最初、アオイソメに似た色のワームを使っていましたが、なかなか食ってこないので、ケイムラに変更しました。

誘って誘って、かなり長い間止めて待ってみるとアタリ! 

釣れてきたのはもちろんシロギスです。

「ケイムラは止めていたほうが食ってくるのかな?」と思い、「投げて、少し小づいて、長めに待つ」を繰り返してみると、やはり長く待っていたときにだけ食ってきます。
 
アオイソメに似た色は誘い続けていないと食わないのに、ケイムラだと逆に待っていないと食ってこない。

不思議な色の関係。

すごく気になりました。

釣り人の写真

まずはワームから。ポツポツ釣れました

調理の様子

天ぷら初挑戦!・・・とは思えない手際のよさでチャッチャと揚げていく

料理の写真

テレーン・蒼一郎作、初めての天ぷら。サクフワでめちゃくちゃおいしかった。シロギスはいくら釣ってもすぐ食べちゃうね・・・

調理の様子

シロギスだけじゃなく、エビ、ナス、ピーマンと本格的に揚げていく

今日の一言

そ、そりゃあ、ケイムラ=妖しい光、シロギスも妖しさに弱いんだよ・・・きっと

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隔週刊つり情報(2020年4月15日号)※無断複製・転載禁止

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