赤いダイヤ、白身のトロなど、最上級の形容で紹介される超高級魚アカムツ。
「ノドグロ」という別称のほうがなじみがあると言う人もいると思うが、この魚は600gを超えるものはとくに良型とされ市場価値も跳ね上がる。
しかし、以前10年ほど魚屋さんをやっていたという、この日の竿頭となる鈴木眞人さんにそう話しかけると、こんな即答が返ってきた。
「そんなもんじゃないですよ、ここのアカムツは。とにかくデカいんで、あんなの魚屋やっててもまず見ないですね」
我われ5名分の期待を満載した第八三次郎丸は、飯岡港を出ると一路犬吠埼沖へと向かった。
犬吠埼沖は、大陸棚のカケ上がりになっている地形からたくさんのアカムツが居着き、豊富なプランクトンが含まれる親潮と黒潮がぶつかって沖のほうへ流れ出ていく潮目ができることから、アカムツがよく育つと言われる。
だから犬吠埼沖は好漁場なのだが、このあとその驚くべき実態を目の当たりにすることになる。
着底後10秒が勝負
6時を少し回ったころ、ブザーを鳴らした滝沢健司船長が開始をアナウンスする。
「はい、どうぞ。水深は250m。潮が流れ始めちゃうと釣りづらくなっちゃうんで、潮が落ち着いている今のうちに釣っちゃってください」私を除く4人が仕掛けを投入。
そしてオモリが着底すると、全員が同じように竿を大きくあおっては下ろすという釣り方を始めた。
4人はグループで、神み輿こしと釣りが好きな仲間なのだという。
「神輿が担げる所と、アカムツが釣れる所はどこへでも行きますよ」という鈴木さんにどうやって釣っているのかと尋ねると、こう話してくれた。
「オモリを浮かせてゆっくり下ろす。着底したら10秒も待てばアタリが出ますから。10秒待ってアタリがなければ、またオモリを浮かせる。この繰り返しです。オモリが底に着いていないと不思議とアタリが出ないので、しっかり底に着けて待つのが大事ですね」
アカムツは胴つき仕掛けの幹糸から付けエサが離れたときに食いついてくる。
鈴木さんたちがやっている誘い下げは、シャクリ上げた仕掛けをゆっくり下ろしていく最中に枝スが幹糸から離れて付けエサが漂う。
このタイミングでアカムツに食わせるイメージのようだ。
ゆっくりと仕掛けを下ろすのは、付けエサが漂う状態をできるだけ長く保つため。
鈴木さんが言う「オモリが着いていないときにはアタリが出ない」という状態は、潮に流された仕掛けの幹糸と枝スが重なるため付けエサが離れていないのだろうと想像する。
(左)当日は東の空が明るくなり始めた6時過ぎにスタート。(右)エサは船宿支給のホタルイカと持参したサバの切り身を抱き合わせにする人が多い。
出典:
アカムツは口が弱い。バラシ軽減のために手持ちで巻き上げ、ウネリをかわすように竿を操作して口切れやスッポ抜けを防ごう。
出典:
タモ使えよ!
開始から約20分後、鈴木さんが電動リールのモーター音を響かせる。
しかし、これはサバ。
その後もまだ夜が明けきらない暗いうちはサバが頻繁にアタリを出した。
そして周囲が明るくなり始めた7時ごろ、「これはサバじゃないでしょう!」と藤田さんが声を上げる。
駆けつけると、確かに竿の曲がり具合が違う。
上がってきた仕掛けをたぐり、一気に抜き上げたのは約40cmのクロムツ(ムツ)。
3名から祝福の声が飛ぶかと思った次の瞬間、「タモ使え!」と声が飛んだ。
続けて藤田さんがまたアタリをとらえる。
海面下に漂う魚体は赤と白が交互に輝いている。
そしてデカい!
「アカムツだ!」と叫んだ藤田さんは、これを力任せに抜き上げた。
「タモ使えよ、タモ!」という複数の声をものともせず、藤田さんは両手を突き上げロッキーポーズ。
それもそのはず、このアカムツがこの日の最大となる50cm、1.8kgの超特大サイズ。
確かに鈴木さんが言っていたとおり、そのデカさは驚愕だった。
そしてここから、その場にいても信じられないような爆釣劇が始まる。
鈴木さんが約40cmのアカムツを釣ると、並んで竿を出している鈴木さんの父親も負けじとばかりに同級を釣る。
これに対抗するかのように、また鈴木さんが今度は50cm弱のアカムツを釣り上げ歓声を上げる。
その隣でクロムツを釣って肩を落としていた林さんも、直後に待望のアカムツを手にして満面の笑みだ。
全員の写真がそろったところで私も仕掛けを下ろしてみると、いきなりのアタリだったがこれはメダイ。
それを取り込んでいる最中に、今度は鈴木さんが良型アカムツの一荷を披露して船上が沸きに沸く。
船長も、この驚愕サイズのアカムツの入れ食いタイムに、「このポイントで潮がこれだけ長い時間止まってくれれば、こうなりますよ」と興奮気味に話してくれた。
しかしこの直後から潮の流れがきつくなり、ついには誘い上げたオモリが着底しないほどになってしまう。
また、天気予報どおりに北西からの強風が吹き、海を荒れさせる。
鈴木さんが規定数の10尾目を取り込んだところで、船長は早揚がりをアナウンスした。
この日の釣果は30~50cmのデカアカムツが2~10尾。
4人で20尾ジャストだ。
もう何も言うことはない。
犬吠埼沖へ急行せよ!
(左)早朝に交じることが多いムツも良型主体。(右)最初の1尾が釣れて満面の笑み。
出典:
(左)ハリのチモトには浮力体のマシュマロボールやケイムラパイプをセット。ハリ数は2本まで、オモリ200~250号を使用。(右)全身が濃い褐色の標準和名クロムツとおぼしき個体も上がった。
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平均サイズは30~35cmほどで小型はほとんど交じらない。
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50cmに迫る良型を交えて10尾の鈴木さんが竿頭。
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犬吠埼沖のルールを厳守
犬吠埼沖のアカムツ釣りにはルールがある。
・釣期は1~6月まで。
・仕掛けのハリ数は2本まで。
・クーラーボックスに収める数は10尾まで。
これは資源保護のためのルールだ。
これだけのサイズの高級魚アカムツが釣れる豊饒の海を守るためにルールを厳守しよう。
アカムツの宝庫は厳格なルールで守られている。
出典:
Tackle Guide
使用するオモリは基本的に200号だが、犬吠埼沖の潮の速さは変わりやすく、極端な速潮になることもあるので、予備で250号も用意しておくことをおすすめしたい。
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