「はいっ、お待たせ!」テーブルの上にド~ンと舟盛りが載せられる。
その瞬間、場が一気に華やぐ。
そこにいる全員が「おお~っ!」と声を上げる。
舟の上に盛られた姿造りはダイナミックで、今すぐにでも魚が動き出しそうだ。
魚を釣り上げたときの生命感や躍動感が、そのままテーブル上で再現されているのだ。
食事もお酒も進み、会話が盛り上がる。
舟盛りを自分で作れたら、どんなに素晴らしいだろう・・・。
釣り上げた瞬間の感動を思い返しながら魚をさばき、自分で盛り付けたという達成感を味わう。
そして、一緒に食べる家族や仲間たちの感嘆の声と喜びの顔!
「釣った魚を食べる」という行為は、釣り人の特権だ。
なかでも舟盛りは最高峰と言える。
そして実は、魚をさばいてサクにすることさえできれば、舟盛り作りはさほど難しくない(と、15歳で舟盛りに挑戦したわが息子の蒼一郎が言っていた)。
大切なのは、盛り付けに真心を込めることだ。
釣った魚への感謝、そして一緒に食べる人たちへの愛。
それは、釣り人みんながもともと持っている思い。
つまり、釣り人ならだれでも素敵な舟盛りが作れるのだ!
その壱「材料をそろえる」
舟盛りにダイナミックさをもたらすのは、立体的な盛り付けだ。
そのためにはお造り以外の素材ーつまり料理を食べる人があまり意識しない裏方ーを惜しみなく用意することが非常に重要。
土台となり、支えとなり、飾り付けとなる材料をふんだんに用いることで、よりゴージャスな舟盛りが演出できる。
[アワビ&サザエの貝殻]
土台にしたり、小鉢代わりにしたり、「見えてもカッコいい裏方」。使い勝手がよいのでぜひ準備したい。貝殻は民宿庄之助でももらえます。
舟(全長60cm)と材料の対比「全部盛り付けられるの!?」と心配になる分量だが、実際は魚を曲げて動きを出し、サクもすべて使うわけではないので適量なのだ。
[飾り]
見せたくない部分を隠しボリュームもアップさせる飾りは1つあると便利。浅草・合羽橋などで容易に入手可能。
[盛付け用素材]
◎大葉(10~15 枚)◎パセリ(適量)◎スダチ(1個)◎レモン(1個)◎食用菊(小輪種)◎穂ジソ ◎ミョウガなど。ツマと大葉、パセリのほかは、なくてもOKだ。
[舟盛り用の舟(盛込舟)]
今回は全長61cm、盛り付け部の長さ29.5×幅18.5cmの舟を用意。かつて釣り仲間が蒼一郎にプレゼントしてくれた品。ない場合は大皿でチャレンジ。
[小鉢]
実は舟盛りにおいて重要なのは脇役とも言える小鉢類。なめろう、ワサビ、貝類の刺身などを盛ることでバラエティ感が出せる。
[土台用]
姿造りにイキのよさを与えるべく、土台としてダイコンと竹串を用いる。ニンジンでもOK。
[魚介]
今回は旬のヒラメ、東京湾で釣れたアジ、カモシ釣りで交じったイサキ、そしてサザエとイセエビ。貝やエビがあるとひときわゴージャスに。
その弐「さばきと土台づくり」
1.イサキは頭と尾を切り落とさないように三枚おろし。迫力と動きを出すために胸ビレも残す。
2.ヒラメは五枚おろし。こちらもイサキと同様、胸ビレと尾をつなげておく。
3.エラと内臓を取り除いてキッチンペーパーを詰める。血の出る部分を隠す配慮だ。
4.使う魚の大きさに合わせて、尾を立たせる基礎となるダイコンをカットする。
5.魚の尾の高さに合わせて竹串をカットしてダイコンに刺す。これはイサキ用でやや傾斜させている。
6.舟に直接魚が触れないように、キッチンペーパーを敷く。全体像をイメージしながら魚の配置を決めよう。
7.こちらはヒラメ。主役の魚は尾をほぼ垂直に立たせて高さを出してダイナミックに見せる。
8.尾を曲げる際は背骨を一カ所「ポクッ」と音がするまで力を入れて折る。
その参「盛り付け」
まずは舟と魚を見比べながら完成予想図を頭に思い描く。
簡単なイラストを描いてもいい。
豪快な見栄えにするのがポイントだが、制作過程は意外にも繊細だ。
おいしそうに見せるために重要なのは、清潔感と「隠す作業」。
切り身と魚体が触れないよう配慮し、見せたくない箇所はツマや飾り物でしっかり隠す。
1.舟盛りの骨格となる魚体を配置。斜めの角度を大きくつけるとダイナミックな印象になる。
2.中央のメインになるヒラメにはアワビを乗せて一段高くする。ほとんどツマで隠れてしまうが、見えても違和感がない。
3.尾の跳ね上げを意識しがちだが、躍動感の演出に意外と効くのは頭。ツマ使ってを頭を持ち上げる。
4.ツマを使ってヒラメの頭をやや持ち上げ、イサキはほぼ垂直に。これで魚2尾のポジション決定。
5.ツマを盛る。ツマは水を張ったボウルにさらしておき、ひとつまみずつていねいに、かつ大量に乗せていく。
6.ツマを敷いたら、刺身を盛り付けたい位置に大葉を置いていく。
7.ここでは右舷をサザエと飾り物でカバー。尾の裏側など見せたくない部分を隠し奥行きと立体感を演出。
8.サクを切って、包丁を使って身を乗せていく。ヒラメはそぎ切りにして、ここでは3列に並べてみる。
9. 端部分は扇形に隙間を設け、広がりのある演出も試みた。これにより半身分ほどを使用した。
10. イサキの切り身は、やや厚手にそぎ落として添えていく。ここでも半身分ほどが乗せられた。
11. 左舷部トモに豪快に現れたのはイセエビの姿だ。その尾羽根を広げるのがコツだ
12. 切り身と魚の体が接触しないように、パセリを仕切り材として挿入していく。部分的にはレモンも仕切りとして使用し、爽やかさと風味を増すことができる。
13.食用菊を添えて彩り華やかにし、スダチを半分に切って添えておく。柑橘系は食と香りのキーポイントになる。
14.ヒラメ、イサキ、イセエビと高さをそろえずに段を付けることで奥行き感を演出。土台作りの段階
からこの高さをイメージしておくとよい。ここで穂ジソの長さも調整。
15.船首にアジのなめろうを入れた小鉢とワサビを乗せて、寸分のスキもない舟盛りが完成!できるだけツマが見えないようにすると豪華さが増す。
16.供するまでに時間が空く場合は、湿らせたキッチンペーパーで尾をくるみ、乾燥しないように留意。
オプション!より豪華に演出するために・・・
[イセエビ]
1.イセエビは頭を切って10分ほど冷凍室に置いて・・・。
2.尾下側から両脇に包丁を入れて殻を切断して剥いてから身を取る。冷やして身が締まると簡単に剥がれるぞ!
[サザエ]
1.サザエはスプーンの柄を使って身をグリン!と出す。
2.貝殻のツマを詰めて大葉を敷いて小鉢代わりに使う。
まとめ「完成!」
40分でこの仕上がり!ポイントを押さえれば簡単だ。
蒼一郎の舟盛り手記
初めての舟盛りに挑戦!気付いたコツが3つありました。
★ひとつは、高さを出すための土台作り。ツマや貝殻でカサ増しすることでこんなに立体感が出るのか、と驚きました。
★ふたつめは「隠すこと」。見栄えが悪い箇所はとにかく隠す!それに、ちょっとすき間があるだけでも違和感があります。隠すべき場所やすき間がないか、何度も確認しました。
★そして最後は、柑橘類を飾ること。香りも爽やかで、見た目の印象もガラリと変わりました。
大変そうだと思っていた舟盛りですが、この3つだけ気を付ければ簡単に作れることが分かりました。
完成したときには「こんなスゴイのを自分で作ったの! ?」という喜びで思わず笑顔に。
舟盛りは、作る側、食べる側のどちらも驚きの笑顔になれる素敵な料理でした!
【隔週刊つり情報(2020年1月1日号)※無断複製・転載禁止】