小学生のオレは基本的にどーしよーもないアホなガキんちょで、他愛もないイタズラを繰り返し、親が学校に呼び出されることもしばしばだった。
エネルギー全開だったのである。
だが一方で、静かなる読書少年でもあった。
外遊びから抜け出して図書館にこもったり、ちっちゃい本屋に入り浸って立ち読みしまくり店のオヤジにマジでハタキで追い払われたりしながらも、とにかく活字を読むのが好きだった。
この性癖は間違いなくライターという今の仕事につながっているのだが、当時はそんなことは微塵も想像もせず(こういうところがアホ)、硬軟問わずなんでもかんでも貪り読んだものだ。
が、何を読んだのかはほとんど忘れてしまった(こういうところがホントにアホ)。
10月5日、南房は洲ノ崎栄ノ浦港の早川丸でのんびりとカワハギ釣りをしながら、オレは突然、雷に打たれた(比喩です。当日は快晴でした)。
不意に、小学生のときに大好きで読みまくった本、ポプラ社の少年探偵シリーズを思い出したのだ。
江戸川乱歩が書いた名作である。
思い出すと言っても、おどろおどろしい絵の表紙と、明智小五郎および小林少年率いる少年探偵団の活躍っぷり、そして、怪人二十面相の底知れぬ恐ろしさ、程度のあいまいな記憶しかない。
ただ、なんとも不気味で、だからこそ読むのをやめられず、活字ワールドにズブズブと引きずり込まれていくような感覚は、鮮明に残っている。
カワハギを釣りながら、もう40年も完璧に忘れていた少年探偵シリーズを突如として思い出したのは、その中に「妖怪博士」「魔法博士」という強烈なタイトルがあったからだ。
内容はまったく覚えていない(全面的にアホだったし)のだが、頭よさそうでカッコいい「博士」という肩書きに、「妖怪」「魔法」というソラ恐ろしい文字を組み合わせるという荒技は、なんとも面妖だった。
おどろおどろしくてやけに魅力的だったあの世界観が、爽やかに晴れわたった南房のカワハギ釣りでよみがえったのは、同船した本誌発行人・根岸伸之さんが、やたらとカワハギを釣り上げているせいだ。
くわえタバコにハット姿。
斜めに座りながらも合わせは鋭い。
博士じゃん・・・。
だがこの博士、引っかかる・・・。
何かウラがある。
どこかにトリックがあるはずだ・・・。
博士=アヤシイ。
とか言いつつ、耳をそばだてて、 鈴木名人の教えを必死に聞き取った。
昨今の東京湾におけるカワハギvs人間の戦いは、かなりカワハギに分があるようだ。
「半日がんばって1枚、なんてこともありましたよ。ははは」と、半ばヤケクソ気味ながら朗らかに笑うのは、カワハギ釣りの名人なのにその名はスズキ、鈴木孝さんである。
「それも、朝イチに1枚釣ってそれっきり、とかね。わはははは」。
高笑いが風になびく。
鈴木さんはシマノのインストラクターで、狙ったカワハギを必ずや仕留めるスナイパー釣法でよく知られている。
カワハギ釣り歴は15年を超える大ベテランだが、やはりシブイときには苦戦するようだ。
カワハギタックル
それにしても鈴木名人は、オレたち親子のようなビギナーにも分け隔てなく接してくれて、場を明るく楽しく盛り上げる。
今回も「絶対釣らせてあげるからね!」と我われ以上に意気込み、なんと第一線級タックルを惜しげもなく貸してくださったうえ、釣り開始とともに蒼一郎少年の横につきっきりでカワハギ釣りのイロハを懇切丁寧に教えてくれていた。
オレたち親子のカワハギ釣りは、今回でわずか3回目である。
1回目は真鶴、2回目は館山で、いずれも3枚ずつしか釣れなかった蒼一郎は、カワハギ釣りに苦手意識を持っていた。
そこへきて、鈴木名人のレクチャーである。
もともと素直な性格なので、名人の教えを神妙に聞いている。
そして、言われたとおりに釣っている。
表情は真剣だ。
「ヨシヨシ、これはイケるぞ」とオレはほくそ笑んでいた。
事前に沖藤編集長からは「厳しい戦いになるけど、デコらないでね~」とキツ~く言い渡されていたが、鈴木名人の教えを受けた蒼一郎が本気になり、1枚でも釣ってくれれば万々歳である。
これを他力本願ならぬ息子本願という。
なーに、オレのDNAを受け継いでいる蒼一郎が釣れば、オレが釣ったと同義なのである。
とか言いつつ、オレだってもちろん釣りたい。
耳をそばだてて、蒼一郎にレクチャーする鈴木さんの教えを必死に聞き取った。
底をトントントンとたたいてから、ものすごくゆっく~り上下させる、という動作が基本であるらしきことが分かった。
よし、やるぞ。
いや、やれない。
なんてこった、動作の基本以前に、エサ付けができないのである。
「す、すいましぇーん・・・、アサリってどうやってハリに付けるんでしたっけー?」とのんきに聞くと、
鈴木名人はイヤな顔ひとつせず、「水管を縫い刺しして、クリッとひっくり返したら硬いベロをまた縫い刺し。最後にワタにハリを通せばOKです。あ、ハリ先は必ず出しておいてね」とやはり丁寧だ。
博士=アヤシイ。
名人=ヤサシイ。
こうして、右も左も分からないままぼんやりと釣り始めたオレである。
なにひとつハリに触れた気配を感じないままなんとなく仕掛けを上げてみると、頑張って3つ付けたはずのアサリがひとつもなかったりする。
ひとつも、だ。
おかしい。
あんなちっちゃいハリに少しも触れることなく、(自分なりに)ガッツリとハリに刺したアサリをかすめ取っていくなど、考えられないではないか・・・。
鈴木名人は自分の釣りそっちのけで蒼一郎に教えてくれて、一緒に一喜一憂してくれた。気持ちのいいオトナであった
出典:
博士は何かを突き出すと、 東京湾に轟く低いダミ声で言った。
カワハギひとり(←もはや人格化)の脳は、オレと同程度のちっちゃさだろう。
しかし、長きにわたって色んな経験を積んだちっちゃい脳がたくさん集まることで、カワハギワールドにはオレ以上の知恵が蓄えられているのではないか。
つまり相手は魚を超えた存在──怪盗カワハギ二十面相なのだ。
だとすれば、アサリをかすめ取るなどお茶の子さいさい、持ち物すべてを盗まれてもおかしくない。
スマホは大丈夫だよな?
サイフあったっけ?
カワハギ、怖ぇ・・・。
と、例によって波間に揺られつつくだらないことを考えていると、カカカン!という鋭いアタリがきた。
どうしたらいいのか分からないのでヌルーッと巻き合わせすると、カンカカンカンカン!とパワフルに引いてくる。
うひゃー、これ、カワハギでないの?
今回は、オレも蒼一郎も竿はシマノ・ステファーノ攻のHHHを使わせてもらっているが、その硬さのおかげでオートマチックにハリ掛かりしてくれたのだろう。
だが、巻き上げるのが怖い。
HHHはあくまでも硬く、魚の引きを吸収してくれる気配がない。
自らの竿さばきで、引きをいなさなければならないのだ。
「ならないのだ」なんてエラソーに言ってるが、そんなことできない。
ゆっくりとリールを巻くことだけを心がけた。極度の緊張感を突き破って上がってきたのは、見事と言わざるを得ないカワハギその人だった。
すげえ。
早くも怪盗カワハギ二十面相を釣ってしまった。
ミノカサゴか何かを釣っている蒼一郎より先に。
しかも、釣り方がよく分からなくなって底をズリズリとさせているうちに。
ああ、勝った・・・。
怪盗カワハギ二十面相に、高橋剛少年が勝ったのだ。
少年じゃねえよ。
バリバリ中年じゃねえかよ。
少年はどうした、少年は!?
蒼一郎少年は苦戦していた。
そして意外や、鈴木名人も苦戦していた。
寡黙な蒼一郎少年に対し、明るい鈴木名人は「ん~、おっかしいな~」「あれ~?」「あー、バレた!」と、心の声がダダ漏れである。
ふたりに共通していたのは、ハリへのこだわりだった。
蒼一郎の釣り座の前に据え付けられたマグネットには、交換用のハリがたくさんくっついている。
迫力のある眺めだった。
ハリの山は、常に鋭いハリを使ってどうにかカワハギを釣ろうとする釣り師の気迫そのものだ。
気、ということでいえば、オレは1枚釣ったことですっかり気が抜けていた。
そしてひとり気を吐いていたのは、そう、根岸博士である。
くわえタバコに斜め座りで釣りまくっている。
東京湾カワハギ不調との噂もなんのその、快刀乱麻八面六臂四捨五入の活躍ぶりで、博士はカワハギ二十面相をバッタバッタと釣り上げるのであります!
おや?
少年探偵シリーズだと二十面相が博士に化けてるんだっけ?
アヤシイ。
やはり何かトリックが隠されている・・・。
博士がノソノソとオレたち親子に向かってきた。
怖い。
そして何かを突き出すと、東京湾に轟く低いダミ声で言った。
「これ、使ってみ?」
博士の手には、がまかつ・競技カワハギAT3.5号が握り締められていた。
「あ、はい・・・」
ふだんは自分のスタイルを押しとおしがちな蒼一郎だが、根岸博士のアヤシイ迫力に気圧されたのか、いそいそとハリを交換した。
ななな、なんだ?こっちにくるぞ・なんかしたっけ?違う!釣ってないからか?
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あれ?カワハギじゃん!といった感じでヒョイッと釣り上げた
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根岸博士は1流し目から連発、誘いを変え、ハリを替え、失速することなく釣り続けた
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15枚を釣り上げた博士の頭は、 すでにラーメンドンブリ化していた。
ハリ交換以降、左舷ミヨシの蒼一郎は明らかにペースを上げ、終わってみれば5枚のカワハギ二十面相を逮捕、じゃない、釣った。
自己新記録だ。
「ハリ掛かりも、HHHの竿もよかった。アタリが明確で分かりやすかったよ」と、蒼一郎は真剣な表情のまま言った。
その隣のオレは、序盤に3枚釣り、それで終了した。
カワハギ釣りは、マメさが命だ。
アサリをマメに替え、ハリをマメに換え、誘い方をマメに変えなければ釣れない。
オレは3枚で満足だったが、無精さが露呈した結果とも言えた。
オレの隣の鈴木名人は、「クワ~ッ、またバレた!」「うーん、これで食わないかあ」と常時心の声ダダ漏れながら、最終的には7枚。
手を変え品を変えのマメさ、さすがである。
そして右舷トモの根岸博士は、15枚を釣って竿頭だった。
港に戻る船中、「どこのラーメン食うか」と、すでに頭はドンブリ化していた。
つくづくアヤシイ博士だが、我われ親子にハリをすすめてくれたことからも分かるように、やはりカワハギに対して真摯だった。
トリックはどこにもなく、ただマメだった。
自動ハリス止めによる簡単なハリ交換すら怠ったオレなど、完全にカワハギ師失格だが、船に揺られて心地よい潮風に当たっているだけでもシアワセなんだから、仕方ないよ・・・。
なんて言っている場合じゃなかった。
港に着くや、早川元樹船長が「いや~、渋かったねえ。もっと釣ってほしかったんだけど」と悔しそうだったのだ。
とんでもないです!
マメにポイントを変える船長のリズミカルな操船は、釣っていてとても気持ちがよかった。
博士=アヤシイ+マメ。
名人=ヤサシイ+マメ。
船長=クヤシイ+マメ。
蒼一郎=シンケン+マメ。
みんな怪盗カワハギ二十面相にマメさで勝負していたのだ。
3枚で気を抜いてしまったオレ=おマメでおミソ。
ああ。
難しいよな~と言いつつ、キッチリ釣る鈴木名人
出典:
ためになる蒼一郎の手記・鈴木名人に教わり カワハギ釣りの面白さが 分かった一日・髙橋蒼一郎
今度こそカワハギ、と思ったタマガシラ3連発
出典:
前からちょっと苦手だったカワハギ。
今回は鈴木孝さんに色いろ教えてもらい、その面白さ、奥深さが分かりました。
まず1投目。
底をオモリでトントントンと何度か小づき、ゆーっくり1m誘い上げて、またゆーっくり下ろして底に着ける。
鈴木さんに教わったこのやり方でまず釣れたのは、ミノカサゴでした。
何でもいいから魚が釣れたのがうれしい!
カワハギはエサ取りよりも早い動きでも食ってくるらしいので、少し誘いを早めてみると、さっそくカワハギのアタリです。
アタリは2回あったけど掛かりませんでした。
回収したらまずハリ先チェック。
ツメの上でこすって、引っ掛からずに滑るようなら即ハリを交換します。
これも鈴木さんに教わりました。
「とてもマメにやるんだな~」と、楽しくなってきました。
その後、アタリがパッタリと止まったので、早めの動きに変えてみました。
いきなりアタったけど、やはり乗りません。
合わせが難しい・・・けど面白い。
外道ばかりでカワハギがこないので、誘い方を底トントン+ゼロテンに変えてみました。
同時に仕掛けの上に付けたガン玉を利用して、竿先を下げてエサをブラブラさせ、再びゼロテンで食わせの間を取ります。
食わせの間をハッキリさせるようにしたら、ついにカワハギが釣れました!
食わせの間を5秒と長く取り、仕掛けがなじんだときにアタるパターンがほとんどでした。
潮も濁っていたので、底トントンが効いたのかな?
竿はステファーノのHHHを使わせてもらいましたが、色んな情報がハッキリ伝わってきて、すごく釣りやすい竿でした。
カワハギ釣り、ハマりました!
(左)親ゴー史上カワハギ最高釣果を更新(右上)前回のカワハギ釣りは3年前。さばくのもすっかり上手になってました(写真:母)(右下)あ、そうそう、メイチダイ!コレ、メッチャうまかったです!
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(上)本日のメイン。カワハギのお造りに、しっかり濾したたっぷりのキモを添えて(左下)外道もしっかりいただきました。左がタマガシラ、右が、えーっと、なにダイだったっけ?とにかく、どっちもご飯止まらず!(右下)最近、蒼一郎がめきめきと腕を上げている煮付け。カワハギもふっくらとした仕上がり
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蒼一郎の今日の一言
アタリも満足に取れず、合わせも決まらなかった父からすれば、十分うらやましい……
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隔週刊つり情報(2019年11月15日号)※無断複製・転載禁止