停泊している第二海神丸のそばに集まったのは、ヨッシーこと吉岡進さん、釣友のイソメマン鹿島一郎さん、その手下である板倉友基さん、編集担当の近ちゃんこと近田憲男さん、そして筆者タカハシゴーの5名である。
スローピッチジャークジギング(以下スロジギ)に挑もうとしているのだ。
「わっはっは、ボリボリ」「いっひっひっひ、ボリボリ」と、乗船前から早くもくだらないバカ話で盛り上がり、港の静寂を打ち破る。
ちなみにボリボリは蚊に食われた箇所をかいている音である。
盛り上がりつつも、総員の心中は千々に乱れていた。
「釣れる気しかしないな!」と強気になった数十秒後には、「いや、ボウズもあり得るな・・・」と弱気になる。
かと思えば、「爆釣間違いなしだぜ」と確信し、準備を進めながら「釣れなかったら、コレも無駄になるのか・・・」と薄ら寂しくなる。
いつも以上に感情の起伏が激しいのは、プロアングラーであるヨッシーを除くと、残りのメンバー全員がスロジギ初体験だからだ。
スロジギは、なかなかマニアックな印象が強い釣りである。
「細糸細竿で200g以上の重いジグを使って深場を攻め、ヤリトリも竿を起こさないストレートポンピング」という勝手なイメージがある。
特殊、とまでは言わないが、独特な釣りだろう、と思い込んでいたのだ。
「果たして我われで釣りになるのか・・・」と心配しているところへきて、蚊に食われたこともあって、出船前から敗色濃厚の一同であった。
初挑戦のスロジギに少し緊張気味で釣り場へ向かう
出典:
スロジギの威力を目の当たりにする衝撃の1枚
だが、編集・近ちゃんが耳寄りな情報をくれた。
第二海神丸がスロジギで攻めるのは水深50m前後の魚礁周りらしい。
いきなり気が軽くなる。
ジグの重さも、ヨッシーいわく「100~150gで十分だと思うよ」とのこと。
ちなみにラインはPE1.5号、リーダーも5号と、特殊な香りはしない。
竿も「専用がなければライトジギング用やタチウオジギング用の竿も使えるよ。
150gが背負えればまず大丈夫」とヨッシー。
ますます気が軽くなる。
そして今回使うジグは、ジャッカルの「バンブルズジグ スロー」だ。
ヨッシーを除く面々はやったことのないスロジギだが、スロータイプのジグは多種多様に発売されている。
同銘柄でも形状違いなどが取りそろっていることもある。
しかもアシストフックはサイズや形状、アシストラインの長さや色などバラエティ豊かで、ビギナーにはどれを選んだらいいか分かりにくい。
その点「バンブルズジグ スロー」は、シンプルだ。
重さは100~250gの6種、色が8種あるが、基本フォルムはどれも同じ。
フックもフロント、リヤともに標準装備されているから、悩みどころが少ない。
スロジギという釣りが、少しずつ近づいてきた。
釣れるのか、釣れないのか、という釣果への不安は相変わらずだが、とりあえず釣りはできそうだ。
水平線からゆっくりと昇る太陽が、オレンジ色の光で空を染める。
薄い雲。
のっぺりと穏やかな海。
午前4時45分、第二海神丸が港を出る。
45分ほど走り、いよいよスロジギ開始である。
事前情報どおり、水深は50m前後。
砂地にポツポツと点在する魚礁周りを狙う。
このポイントではヒラメ、クロソイ、マダイ、青物、そしてイシナギなども釣れるらしいが、どの魚を釣りたいとかのこだわりはない。
ジグを食ってくるすべての魚をガチで釣りたいのだ。
緊張の1投目、120gのバンブルズジグ スローを落としていたタカハシゴーとイソメマン鹿島さんに、いきなりアタリが出た。
「ホントにスロジギって釣れるの~?」という疑念が軽くフッ飛ぶ。
そう、ぶっちゃけ、疑っていたのである。
初めての釣りをするときならではの疑いだ。
1尾を釣るまではなかなかぬぐい去ることができない疑い。
しかし1投目からズゴゴンとナイスなアタリがあったものだから、「こりゃもうイケるだろう!」とポジティブになる。
見切りが早く、リズミカルに流し変えてくれる森船長の操船も、モチベーションを高めてくれる。
ただ、「勝負は朝のうち。8時までかな」とつぶやいていたのが少し気がかりだが・・・。
そしてテンポよく流し変えての2流し目、ズゴゴッというアタリを得たのは、初スロジギどころかジギング自体が2回目、ふだんはクロダイのヘチ釣り師としてその名をはせている板倉さんだった。
いきなりのヒラメである。
しかも良型だ。
「うわ、ヤバ。おもしれぇ!」フレッシュな歓声をあげる。
ジグが着底したと同時にアタリがあり、ポーンとジグを跳ね上げてフォールさせたら食ってきた。
板倉さんにとっては、スロジギの威力を目まの当たりにする衝撃の1枚だった。
そしてこの1枚こそ、怒濤のヒラメラッシュ幕開けののろしだったのである。
ヨッシーがプロデュースしたスロジギ専用ジグでアシストフックが標準装備。左右非対称ボディで片面が大きく張り出し、もう片面はカップ形状になっていて、滞空時間の長いフォールで魚にジグをじっくり見せて食わせられる。
出典:
(右)良型ビラメが多く釣れ、船長もタモ入れに忙しい。(左)ヒラメはフォールでよく釣れた。
出典:
キタ!キタコレ !!クーラー満タン早揚がり
スロジギは、その名のとおりスローにジグを操る釣りだ。
ヒラメのようなフラットフィッシュや根魚など、海底に張り付いている魚を狙うときには、着底したらすぐに竿先を50cmほど上げて止め、竿先を下げながらリールを1/4~1/2回転する。
この繰り返しだ。
スローピッチジャークと呼ばれるアクションである。
ヨッシーがプロデュースしたバンブルズジグスローは、止めた瞬間にシュッと横を向き、いち早くフォール態勢になるよう設計されている。
ここが第1のポイントだ。
その後、竿先を下げたときにヒラを打ちながらゆっくりとフォールする。
左右非対称ボディのなせるワザ。
ここが第2のポイントである。
竿先を止めてジグが横を向いた瞬間。
そしてヒラヒラとゆっくりフォールするとき。
この2回が大きなチャンスとなる。
「底から5~10mほどはスローピッチジャークでネチネチと探って根魚狙い。宙層からは青物狙いで、テンポのいいワンピッチジャークに切り換える。これがスロジギの基本かな」とヨッシー。
食い上げてくることもあるからゆっくりしたただ巻きもアリだし、着底直後から早めのワンピッチジャークを繰り出すのもアリ。
状況を見極めながら様ざまなアクションにトライしたい釣りだ。
板倉さんは10分後にもう1枚追加。
そのさらに10分後、イソメマン鹿島さんの竿がギュインとヒン曲がった。
「着底と同時にガキッと動かなくなったから、根掛かりかと思ったんスよね。
そしたらズズッと動き出して・・・」と鹿島さん。
全身を使いながらのヤリトリの末に上がってきたのは、6.5kgの大ビラメだった。
「なんだコリャ!ガチ大ビラメやないか!」「す、すげえぇぇ!」「やったね鹿島さん!」「スロジギ、ハンパねぇッス!」。
まさに大型座布団サイズ。
大コーフンである。
「コレコレ!この食わせ力だよ!」とヨッシーも大喜びだ。
「バンブルズジグシリーズのなかでも、スローは波動が大きいんだ。だから魚へのアピール力は強い。しかもジグのサイズ感が大きいから、食ってくる魚も大きいんだよ。鹿島さんのドデカヒラメがすべて証明してくれたって感じ。いや~、衝撃的だね!(笑)」
午前6時を前にして、早くもフィナーレを迎えてしまったかのようだった。
みんな満足していた。
「ねえねえ、これ以上なにがあるの?」と、ほどけた笑顔だった。
だが恐るべきことに、これはほんの序章だった。
5分後の6時ちょうど、板倉さんがイナダを釣った。
その28分後、ヨッシーが早めの誘いでイシナギを釣った。
その4分後、鹿島さんが再びドでかいヒラメを釣った。
その8分後、タカハシゴーがクロソイを釣った。
それから48分空き、7時28分にヨッシーがフォールで良型のヒラメを釣った。
その16分後、ヨッシーがクロソイを釣った。
その6分後、タカハシゴーがヒラメを釣ると同時に、鹿島さんがワラサを釣り、板倉さんも恐らく青物と思おぼしき魚をバラした。
その30分後にタカハシゴーがクロソイを釣り、8分後に鹿島さんがヒラメを釣った・・・。
これですべてを書き切れているわけではないのがおそろしい。
大きくポイントを移動してからも、もはやメモを取り切れないほどの魚が釣れまくった。
真のフィナーレとなったのは、午前10時に板倉さんが釣り上げた4.7kgのヒラメだった。
「釣り始めは正直、釣れる気がしないなぁと思ってたんです」と板倉さん。
「ホントに鉛で釣れんのかよと(笑)。いやぁ、釣れますね。おもしろすぎる!もう僕、鉛しか信じません(笑)」
どの魚もことごとくサイズがデカイから、クーラーは満杯である。
そして午前10時半、森船長から提案があった。
「どうですか?もうそろそろクーラーもいっぱいみたいですし・・・」
キタ!釣り人ならだれでも1度はあこがれる、「クーラー満タン早揚がり」キタコレ!!
パンパンにふくらみフタが弾け飛びそうになったクーラーがあまりに重く、第二海神丸は斜めに傾
かしぎながら──すいません明らかに誇張表現ですが気分的にはそんな感じ──、さっそうと港に戻ったのだった。
人生でジギング2回目、スロジギ 初挑戦の板倉さんが船中第1号となるヒラメを上げた。
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6.5kgのヒラメを持ち上げ、「重い!」と言いながらもうれしくてたまらない鹿島さん。
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(左)1回シャクるごとにリールのハンドルを2分の1回転で巻くとイシナギが食ってきた。(右)ゆっくりシャクって、一度止めてジグをフォールさせる。これを繰り返して探っていく。
出典:
同じ場所を攻め、クロソイとヒラメのダブルヒット!
出典:
スローに動かすだけではもったいない
「ホント、よく釣れたね」とヨッシーも満面の笑顔だ。終わってみれば、4人でヒラメは20枚。
サイズがデカイものばかりなので、数以上の満足感があった。
「バンブルズジグ スローはシャクって止めたときに横を向きやすいジグだから、自動的に食わせの間が作れるんだよね。今日はそれがハマったんだと思う。ただ、実は序盤は食いが浅かったのも確か。アタリはかなり多かったから、それを全部取れてたら・・・船ホントに沈んでたかもね(笑)。おれはちょっと早めの動きに分があると感じた。食いが浅い分、リアクションで食わせるという感じかな。だからジグも120~150gと、水深のわりに重めを中心に使ったよ。フォールスピードが早いからね」
スローピッチジャークジギングという名前だからといってジグをスローに動かすだけではもったいない、とヨッシーは言う。
「あまり『スロジギ』というイメージにこだわらず、『波動が強くて重めのジグ』ぐらいのつもりでいてくれたらいいかな。
今回みんなの釣りを見ていて分かったけど、浅場でのスロジギはSLJと同じぐらいアクションが容易だけど、SLJより重さがある分、底取りしやすいみたいだね。
すっかりハマった板倉くんじゃないけど、ジギングビギナーの方にこそオススメできる釣りだってことが確認できたよ!」
港に戻ると、爽快で豊かな気分が待っていた。そして「釣れるのかな・・・」という不安はすっかり消え去っていた。
蚊のかゆみとともに。
(左)根掛かりかと思ったらテヅルモヅル。ヨッシ ーを除いた全員が釣り上げた。(左下)アタっても掛からないときはルアーにかみ跡がないか確認してしまう。(右)6.5kgに続き、5.3kgのヒラメを釣り上げる。持っている男は釣りまくるのだ。(下)6.5kgを釣り上げたヒットルアー。 自己記録更新記念として大事にケースにしまっていた。
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フィニッシュは板倉さんが釣り上げた4.7kgのヒラメ。
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スロジギの好釣果に大満足のヨッシー。
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