10月1日、小田原南沖のヤリイカ釣り場(初島周り)の解禁取材で乗船したのは、小田原早川港の長谷川丸。
8月末から約1カ月休船していて気になっていたけれど、少し体調を崩していたという谷川船長の顔は以前とまったく変わりなく、「通常営業でがんばりますよ」とのこと。
ゆる~くてとても優しい船長のファンの一人としては、ひと安心だ。
(左)相模湾西部に浮かぶ初島周りは、ヤリイカの一大産卵場と考えられる(右)元気に出船を再開した長谷川丸で出港!
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ここ2年続く初島周りの不振について考える
解禁を迎えて心配なこともある。
ここ相模湾東部で2年ほど続いている、スルメイカとヤリイカの不振だ。
歴史的不漁が叫ばれているスルメイカは、仕方がなかろう。
全国の水揚げ量は2000年度には約30万tもあったのに、2017年度は5万t強まで激減。
原因の一つは日本沿岸を南北回遊するスルメイカの一大産卵場である東シナ海の海水温が、かなり低いためとされている。
今夏は水温が上昇したためスルメイカ資源は徐々に回復すると期待されているようだが、その一方で奇妙なニュースも飛び込んできた。
夏~秋に盛り上がる山陰のケンサキイカ漁が今年は不漁で、山口県萩市で毎秋開催され、20年近く続いてきたイカ祭りのイベントが初めて中止に追い込まれた。
転じて北には豊漁のニュースもある。
昔から北日本の太平洋側で重要水産種となってきたアカイカ(通称ムラサキイカ)が、今年は青森方面で高水準の水揚げ量になるようだ。
スルメイカも相変わらず低調。やはり、なにかがおかしい・・・
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そして本題のヤリイカ。
水産研究機関の報告所によると、ここ数年は日本海側、太平洋側とも総漁獲量に極端な増減は見られない。
ただ、興味深い現象が起きている。
1990年代から、ヤリイカの分布域が南から北へ偏りつつあるのだ。
図は太平洋沿岸におけるヤリイカの分布域で、宮城~関東を北部、静岡~九州までを中部・南部とした。
報告書によれば「1990年以前は北部と中部・南部の漁獲量はほぼ同比率であったが、1990年代以降は北部の漁獲量が全体の約8割を占めるようになった」とある。
近年で比較すると2017年の水揚げ量は北部で約2700トン、中部・南部は約450t。
その差は歴然だが、南北合わせた総漁獲量は昔とさほど変化がないというから、ヤリイカの主な分布域(生活圏や産卵場)が北へ偏ったと推察されている。
要因は昨今話題の温暖化に伴う海水温上昇のほか、気候・海洋・生物資源の変動が数十年周期で同調して地球規模の長期的スパンで資源増減を繰り返す、レジームシフトなどが考えられている。
私的には1990年を境に漁獲量が一気に北偏化したことから後者を支持するが、どうだろう?
こうして見てくると北と南の境界付近に位置する初島周りのヤリイカは微妙な位置にあるものの、個人的には楽観視。
なぜなら私も含めた1990年以降にヤリイカ釣りを始めた人は、初島周りで周期的に爆乗りに遭遇しているからだ。
南北を大回遊するスルメイカは、主な産卵場である西方の環境変化が全国に影響を及ぼしてしまう。
しかしヤリイカは地域毎に生活圏を形成するとされていて、ちょっとした環境変化でそのスポットの資源量が劇的に増減すると考えられる。
ここ2年ほど、初島周りは産卵場の水温、エサ生物、捕食者などとのバランスがヤリイカに不利な環境にあったのだろう。
憶測ながら、例えば長期化する黒潮の大蛇行が相模湾東部の深場から沸き上がる湧昇流(深海の栄養塩を供給する)に異変を生じさせ、稚イカが好むプランクトンなどのエサ生物が一時的に減ったのかもしれない。
数年のブランクをへて今夏復調した相模湾のシロギスのように、諸要因のバランスが元に戻りさえすれば初島周りのヤリイカもプラスに転じる。
そう私は信じたい。
ともあれスルメイカに加えてヤリイカまで釣れない状況は、イカ釣りを金看板にしてきた小田原の船宿にとって死活問題。
今シーズンこそ好転を願って取材したのが、今回の解禁日だった。
ヤリイカ釣りの基本は当地も共通!
長谷川丸を含む5~6隻のイカ乗合が探った釣り場は、初島北沖の水深100~150m付近。
近年の不調を知りつつも乗客は10名の賑わいで、他船も解禁祝いとヤリイカ復活を願うファンでほぼ満船だ。
オモリ120号に、11cmのプラヅノを7本前後結んだブランコ仕掛けというシステムは基本どおり。
サバが多かったり、あるいは予想外にヤリイカの乗りがよい場合は直結仕掛けも活躍するが、「今のところサバも少ないし、正直なところ大釣りもないだろうからブランコでやりますよ。まぁどんなときもヤリイカ釣りの基本はこれですし」一応直結仕掛けもバッグに忍ばせてあるようだが、常連の石垣さんはそう言ってブランコ仕掛けを投入していた。
初期のヤリイカ釣りの基本をおさらいしておこう。
まずは先調子の専用ロッドを使ってヤリイカの微かなアタリをキャッチすること。
穂先が小さなお辞儀を繰り返す程度のアタリを察知できるか否かがヤリイカ釣りの第一歩だ。
次に素早い投入。
船長はヤリイカの群れにうまく仕掛けが入るよう投入合図を出すから、その呼吸に合わせてサッとオモリを前方へ放り込み、仕掛けをスピーディーに着底させる。
その着底直後が一番のチャンスタイム。
糸フケをそろそろと巻き取り、スーッと竿先を持ち上げながらヤリイカのアタリを見る。
竿先がフワフワ、クンクンと上下したらもう乗っているので、すかさず低速で10mくらい巻き上げ、レベル17~19あたりまで徐々に速度を上げて回収する。
アタリがなければシャクって誘う。
70~100cm刻みでスッスッと竿先を持ち上げたら、立てた竿先をストンと下げてツノを踊らせてアピール。
シャクリの合間は2~5秒停止させて竿先に出るアタリを見ることも大切で、この「間」を意識せずシャクリまくるとアタリが分からず、釣れないスパイラルに陥ってしまう。
誘う範囲はツノ数7本の全長10m近い仕掛けなら、底から2~3mで十分。
ヤリイカの遊泳層はおおむね底から10mの範囲が中心だから、これだけ誘えば十分にツノをアピールできる。
この範囲を3回くらい往復させたら、高速で20m前後巻き上げて再着底。
通称・巻き落としでイカの摂餌欲を刺激してやろう。
もう一つ重要なのは仕掛けの取り込みを急がないこと。
イカがいるにせよ、単なる巻き上げ回収にせよ、仕掛けが絡まないようていねいに取り込んで、ツノを投入器の奥深くまで確実に収めていく。
釣果を下げる要因の一つは、不注意による仕掛け絡み。投入回数が減ってしまえば当然数ものびないから、焦らずスムースな取り込みを心がけたい。
(左上)電動リールはダイワなら300番台。PE3号が400m巻き込め、不意な高切れにも安心だ(左下)イカ用のヨリ取りリングは今や定番。 船ベリに引き込むと重石となって、仕掛けの取り込みもスムースになる(右)ブランコ仕掛けのプラヅノは人気のピッカピカ針などでOK。投入器の奥まで、しっかりと差し込もう。
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(上)素早く投入。合図に合わせてすかさず投入し、ヤリイカの群れを直撃(左下)しっかりツノを動かす。プラヅノは擬餌バリ。「アクション&止め」でイカを誘惑。(右下)あわてず取り込み。仕掛けが絡まぬよう、ていねいに取り込む。手前マツリはロスタイムの元だ。
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相模湾全域に出現したヤリイカの群れ
解禁日の釣況は、ヤリイカの反応こそ確認できたものの残念ながら乗り渋った。
平均すると5杯前後でトップの石垣さんが11杯。
そんな中でも、活性が高いヤリイカの群れに当たった1隻の僚船が頭で40杯に到達したことは光明だろう。
参考までに石垣さんの釣り方は、仕掛けをわずかにフカせるタルマセ釣り。
乗り渋ったヤリイカはだいたい下側のツノにしか乗らないものだが、まさに当日もこのパターン。
それを察知した石垣さんは、
・オモリを着底させたまま、隣とオマツリしない程度に仕掛けをたるませる。
・ゆっくり聞き上げて、底近くにいるヤリイカにアピール。
・オモリを底に着けたままだとオマツリするので、竿先を頭上高くまで持ち上げて底を切り、再びストンと落とす。
この繰り返しでポツポツとヤリイカを拾っていき、短い時合が訪れたときは3点掛けも披露してくれた。
シーズン初期ということでサイズは15~20cmの小型が主体ながら、解禁日を選んで乗り込んでいる釣りきちたちは、「軟らかくて甘~い、この小さなヤリイカが最高にうまいんだよ」と目を細めていた。
当日最大は、高野ご夫妻の奥様が一荷で釣り上げた、胴長30cmに迫る良型。
ポイントは水深140~150mの深みで、「水深100mラインは小型、やや深みは良型。これは例年どおりのパターンです。たぶん生まれた時期が少しズレてるんでしょうね」と谷川船長。
その船長に今後の予想を聞いてみると、「うーん、まだしばらくリサーチを重ねないと分かりません。まぁポツポツと見えるヤリイカの反応が増えるのを祈るばかりですよ」仮に初島周りが不調であっても、当地の地先には瀬ノ海(二宮沖)がある。
実際、取材後の釣況を追っていくと、この瀬ノ海でトップ30~40杯を数えたイカ乗合もある。
小田原出船であれば、状況に応じていずれかを攻め分けてくれるから、イカ釣りファンにとっては心強い。
(上)今回もベテランの石垣さんにお世話になった。さすがの腕前で3杯掛けも披露。(左下)解禁、初モノ、秋のヤリイカ。釣りきちにとってはたまらない響き!(右下)ご夫婦釣り師の場合、強運の持ち主はたいてい奥様である。
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最後にその他の地域のヤリイカ釣況に触れておこう。情報は10月初旬現在、水深はいずれも100~150mでほぼ共通である。
三浦半島城ケ島沖は多少のアップダウンを繰り返しながらも釣れ続いている。
さらに隣接する剣崎沖でもポツポツと乗り始めたようだ。
相模湾は前記した瀬ノ海に加えて江ノ島~エボシ岩沖も乗り始め、20~30杯を釣り上げた乗合船もある。
こうして釣り場を俯瞰してみると、三浦半島南部から相模湾中央部、さらに初島周りに至るまで、相模湾全域にわたってヤリイカが出現したことになる。
爆発的な釣果はまだ聞かれないけれど、広域にわたって群れが現れるのは吉兆。
というのも過去、数名の船長から、「1カ所だけで盛り上がる年は釣り切って終了というパターンが多い。広く薄くヤリイカがいる年のほうが、長期間楽しめるんだよね」と聞いているからだ。
まだまだ気がかりな初島周りも、今後少しずつ好転していくと期待しながら推移を見守っていきたい。
海面を浮遊する青いひまわり。正体はギンカクラゲ!
「変なやつが、いっぱいプカプカ浮いてるよ!」・・・まったくの余談ながら今回の長谷川丸船上で、石垣さんが指をさした。そこには小さな〝青いヒマワリ〟みたいな物体が浮いている。
「うわわ、なんスかあれ!?もっと近くで見てみたい!」
ヤリイカ取材そっちのけで目を凝らす私を見て、タモを手にした石垣さんが、ザクッと数個のヒマワリらしきをすくってくれた。
まじまじと観察すると、中央の円盤部が浮力体で、その周りにグリーン色の触手が飛び出し、うごめいている。
船長も初めて見たとのことで、だれに聞いても分からない不思議な生命体だ。
そこで沖揚がり後、すぐ近くにある「神奈川県立生命の星・地球博物館」へ持ち込んでみたところ、判定結果は、ギンカクラゲ科「ギンカクラゲ」。
漢字をあてると銀貨海月で、中央円盤の大きさと色が銀貨に似ているのが由来らしい。
円盤はキチン質の気泡体、周囲に放射状の刺胞を持ったグリーン色の感触体(触手)があり、円盤の下部には栄養体なるものがある。
このヘンテコな姿でプカプカと海面を漂って生活する、クラゲの仲間らしい。
同館研究員の佐藤武宏先生によると、「黒潮海域などの外洋に生息し、夏の終わり~秋にかけて本州南岸に打ち上がることもあります。湘南の砂浜で目撃した方から問い合わせも受けます」とのことだった。
(上)個体のアップ。浮力体の円盤には年輪のようなものが刻まれていて、 周囲にグリーン色の触手が取り巻く。(左下)円盤は直径3~4cm。触手には刺胞があり、その毒性はよく分からない。触らないほうが無難だろう。また、最終的にこの形になる過程は、全く不明である(右下)裏面は栄養体と呼ばれるブツブツとしたもので覆われていて、ここで食べ、子を産むらしい・・・。なんとも不可思議なクラゲだ。
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