11月中旬に釣行したのは東京湾奥横浜本牧のチャーターボート・シーウルフ。
内田信吾船長が目指した釣り場は羽田空港滑走路の間近、多摩川河口。
水深5m前後のポイントに到着すると、魚探にはコノシロの反応が表層から底まで映っていて、海面下にもコノシロの群れが見られる。
上流側からドテラ流しでこの群れに近づき、旅客機が飛び交う下でキャスト&リトリーブを繰り返し、シーバスの捕食スイッチを入れるためのアクションやレンジなどを探っていく。
今回は、コノシロパターンで実績抜群のS字系ビッグベイト「ダウズスイマー」に加え、大型トップウォータープラグ「ダウズワン」という新たな武器を手にシーバスに挑むヨッシー。
何度も何度も、ルアーを投げる。
何度も、何度も。
3.6oz、すなわち約100gもの重さがあるルアーを投げているうちに、やや肩が痛くなってきたような気がしないでもない。
でも、そんな弱音は吐きたくない。
仕事ならまだしも、これは釣りという遊びだ。
人生に彩りと豊かさを授けてくれる釣りという遊びにおいて、弱音を吐くなんていうネガティブな行為はあってはならない。
どんなにつらくても、どんなに苦しくても、奥歯をギシギシと食いしばりながら、笑顔でこう言わなくてはならないのだ。
「楽しいね……!」
それは決してウソではない。
我われツリガチ取材班としては珍しく無口になりガチではあったが、ヨッシーこと吉岡進プロを筆頭に、各人楽しんでいたことは間違いない。
投げるごとに、すべてが違う。
ルアーの空中姿勢、飛距離、着水点、着水の水しぶき、潮、風、そしてルアーのアクション……。
そのわずかな違いに、魚が反応するのではないか。ランカークラスのシーバスが、ガボッと食らいつくのではないか。
投げるたびに、期待がある。
だから魚からの反応がなかなか返ってこないとしても、つらくないし、楽しい。
だいたい、デカいルアーが秋空に放物線を描く様子そのものが、すでに気持ちいいのだ。
どこをどう切り取っても、楽しい。
各人──と言っても、今回は少ない。
ヨッシー、釣友のイチロウこと鹿島一郎さん、筆者であるタカハシゴー、近田編集者、そして内田信吾船長。
総員5名の布陣で東京湾奥横浜本牧はシーウルフに乗り込み、コノシロパターンのシーバスに挑む。
ビッグベイトは投げるだけでも楽しくなる
出典:
ボーン、バシャーンと投げる オモシロオソロシ的な釣り
秋から冬にかけて、でっぷりと成長した20cm前後のコノシロが河口域で大きな群れをなす。
東京湾のシーバスは、それを狙う。
江戸前のコノシロ(コハダ)は寿司ネタとして有名だ。
古くからグルメをうならせてきたコノシロをバクバク食っているのだから、シーバスもぜいたくである。
そのぜいたく者をルアーで釣ってやろうというのが、コノシロパターンのシーバスゲームだ。
釣れるときは釣れる。
だが、釣れないときは釣れない。
「釣れないときにもどうにか釣れる」という釣り物もある中で、コノシロパターンはホゲるときはホゲる。
オモシロオソロシ的な釣りなのである。
取材日の11月16日はれっきとした平日でありながら、多摩川河口周辺にはシーバスを狙うボートが集結し、ボーン、バシャーンと、ビッグベイトと呼ばれる巨大魚型ルアーを投げる釣り人たちの姿が多数見られた。
ボーン、バシャーン、である。
コノシロパターンは、デカいルアーを使う。
これがどうしようもなく楽しい。
定番とも言える人気ルアー、ジャッカル・ダウズスイマー220SFは、身長22cm、体重約100g。
思わず身長体重と書いてしまったが、つい擬人化したくなるほどルアーがデカい。
「これにホントに食いつく魚がいるの?」という疑念と、「これにホントに食いついてくる魚は、間違いなくデカい」という妄想とが入り交じり、釣り人の脳内はもう色んな汁が飛び散ってとても大変なことになってしまうのだ。
しかも、ダウズスイマーの泳ぎがまた悩ましいのだ。
ツイッ、ツイツイッとS字を描ぐ泳ぎは、もう魚以上に魚である。
自分がシーバスだとしても、おびただしい数のコノシロの群れの中からダウズスイマーを選んで食いつきたくなるのではないか。
矢も楯もたまらず飛びついてしまうのではないか。
人生投げ打ってしまうのではないか──と思ってしまうほど、セクシーなアクションをしてくれる。
期待と妄想に胸を膨らませ、我われはルアーを投げ続けた。
チェイスやアタリがあるものの、なかなかフッキングまでには至らない
出典:
ヨッシーが投げ続けたジャッカル・ ダウズワン220。全長22cm、重量約113gの大型トップウォータープラグ
出典:
絶好のチャンスを逸して 打ちひしがれ、そして悔しがる
「アタった!」
鋭く叫んだのはヨッシーである。
8時10分、多摩川の河口で釣りを始めてすぐのことだった。
「リールのハンドルから手が外れるぐらい、ドン! ときた。でかいアタリだったよ。間違いなくシーバスだね」
プロであるヨッシーが、ハンドルから手を外してしまうほどの強烈なアタリとは……。
どれだけのビッグサイズが潜んでいるのだろうか……。
気合を入れ直してルアーをボーン、バシャーンと投げる。
「飛距離は大事だよ」と内田船長。
アンダーキャストでできるだけ遠くまでルアーを飛ばす。
8時50分、タカハシゴーのルアーをシーバスが追ってきた。
船ベリで反転して帰っていく。
その直後、ヨッシーにもチェイスがあった。
海面でエイトトラップ(ルアーで激しく8の字を描くアクション。バスフィッシングのテクニックがシーバスにも応用されている)を繰り出すが、食いついてこない。
「そんなに大きくなかったな。50cmぐらいだと思う」
シーバスがいる。
そして食ってくる。
その事実が判明しただけで十分だった。
その25分後、イチロウこと鹿島一郎さんにヒット!
大きくロッドを曲げてのファイトに船内のテンションが一気に高まる。
ついにそのときがきた。
海面バラシのそのときが……。
「えーーーーーっ!?」
「あーーーーーっ!!」
総員が悲痛な声をあげた。
かなりよさそうなサイズのシーバスが、ギラリという輝きだけを残して去っていった。
惜しい。
惜しすぎる。
一発狙いの釣りだけに、一発を逃したときのダメージは大きい。
打ちひしがれるイチロウ。
悔しがる総員。
だが、逃したシーバスは戻ってこない。
ポツリポツリというペースではあるが、確実にチェイスもヒットもある。
魚がいて食い気があるなら、あとはタイミングだ。
イチロウいわく、「海面下20~30cmをトゥイッチングさせていた」とのことである。
リールを巻きながらトゥントゥン、と小刻みに竿を動かすアクションだ。
ヨッシーはトップウォーターでの一発にこだわっていた。
ガボッとビッグベイトにシーバスが食らいつくシーンはエキサイティングだし、サイズもデカいとされている。
一方、タカハシゴーもトップウォーター狙いだったが、イチロウの「海面下20~30cm」を聞いてすかさず方針転換した。
ヨッシーほどのこだわりがなかったのである。
いそいそと、イチロウとまったく同じルアー、ダウズスイマー220SF・チャートバックパールコノシロカラーにチェンジした。
沈黙を破り、最初に竿を曲げたのは鹿島さん
出典:
ワクワク感と妄想、そして充実感。 ルアーがビッグだと感動もビッグだ。
「どんなヒントでもいいからほしかったんだ」とタカハシゴー。
イチロウの言葉をヒントにした……というより、ズバリ、マルパクすなわち丸ごとパクって、同じルアー、同じアクションにした。
「うあっ!」
タカハシゴーが叫び声を上げたのは、その25分後、9時40分のことだった。
竿を出しておきながら、このヒトは自分が釣れると信じていないフシがある。
だから「うあっ!」は「信じられない!」の意である。
「うあっ!」と言いつつ、どうにかビックリ合わせは堪えた。
というより、ビックリしすぎて合わせられなかった。
この釣りは、ガボッというシーバスの捕食音が聞こえ、バシャッという水しぶきが見えても、あわてて合わせてはいけない。
しっかりとロッドに重みが乗ったのを感じてから、よっこいしょ、と合わせるのがよいとされている。
タカハシゴーの場合は期せずしてビックリ合わせを回避した格好になったが、結果的にしっかりとフッキングし、ヤリトリが始まった。
「こ、これがシーバスか!?」
力強い引きに、ロッドよりタカハシゴーのほうが震えていた。
過去にもビッグベイトでシーバスを釣ったことがある。
それも同じシーウルフだった。
しかし、そのときよりも緊張感がある。
スピニングリールのドラグがジッ、ジッと鳴る。
船ベリまで寄せると、ハデなエラ洗いだ。
バラしたくない。バレるな……。
内田船長の差し出すネットにどうにか収まったのは、74cmのシーバスだった。
タカハシゴー、放心。
ランカーサイズではないし、彼の自己ベストというわけでもないが、ものすごくスリリングだった。
そして、大満足だった。
この達成感はなんだろう。やはりビッグベイトで釣った、ということが大きい。
巨大魚型ルアーで魚を釣るという行為は、かなりスペシャルだ。
ホントに釣れるの~というワクワク感。
ホントに釣れるかも~という妄想。
そして、ホントに釣れた!という充実感。
ルアーがビッグだと感動もビッグなのである。
15分後、「見えた!」と達人のような雄叫びを上げたのはイチロウである。
船ベリ近くまで寄せてきたダウズスイマーを、下からボコーンと食い上げてきたのだ。
70cmのシーバスである。
釣り上手のイチロウも、先ほどの海面バラシがあるから若干緊張気味に、しかし落ち着いてシーバスをネットインさせた。
「さっきとまったく同じアクションでした」とイチロウ。
やはり海面より少し下をルアーを泳がせると反応がある。
主役のヨッシーは、ここまでの間、トップウォーターで攻め続けていた。
イチロウやタカハシゴーにそれなりにチェイスやヒットがあったから、ルアーをダウズスイマーに替えればすぐに釣れるだろう、と思っていたのだ。
「じゃ、ま、そろそろ釣っちゃっていい?」と、ルアーチェンジしたヨッシー。
ところが…。
ダウズスイマーのトウゥイッチングに反応した
出典:
内田船長が差し出すタモに入った瞬間、道糸と緊張の糸が緩んだ
出典:
潮次第、シーバス次第……。 時合を逃してしまうと本当に難しい。
後に、うなだれたヨッシーはこのように振り返った。
「朝の時合を逃したのは大きかったね……。みんなにバタバタと食ってきていたあのときが最大のチャンスだったのに、おれはトップウォーターにこだわりすぎてしまった。慢心があったのかもしれない……」
イチロウが釣った9時55分以降、散発的にチェイスやアタリはあったものの、どうやらシーバスはすっかり食い気を失ったようだった。
ルアーへの反応が薄い。
触ってもフッキングには至らない。
16時過ぎまで粘りに粘り、夕焼けに染まる東京湾でボーン、バシャーン、ボーン、バシャーン、を延々と繰り返したものの、シーバスがシーウルフの船中に入ることはなかった。
ヨッシーがつぶやく。
「コノシロは泳ぐのが速い。シーバス単体ではコノシロに追いつかないんだよ。だから四方からコノシロを取り囲むようにして群れを固めて、一斉に襲いかかるんだ。そういうタイミングにうまく当たれば、朝のチャンスタイムのように高活性になる。もっと食い気があるときは、船中でダブル、トリプルヒットも十分にあり得るんだよ。逆に、そこを逃してしまうと、本当に難しい。潮次第、シーバス次第のところがある。シーバスとのタイミングがバッチリ合って、狙いどおりにビッグベイトでヒットさせるのが最大のだいご味なんだけど……、今回のおれは外しちゃったね……」
手練れのヨッシーでさえ、散らばってしまったシーバスを引き寄せることはできなかった。
潮次第、シーバス次第。
我われ人間はそう簡単に魚を釣らせてもらえない。
だから釣りは面白い。
だからやめらない。
「1月ぐらいまではコノシロパターンが続くはず。次は絶対にタイミングを逃さないよ!」
再戦を誓うヨッシーだった。
トップウォーターのこだわりが強く時合を逃してしまう
出典:
当日のボートシーバスで見付けたコノシロパターンで〇〇しがちなシーン
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隔週刊つり情報(2022年1月1号)※無断複製・転載禁止