ヨッシーこと吉岡進がエサ、ルアー釣りを問わず、様ざまな釣り物にガチで挑戦していく連載「ツリガチ!」。
第13回は内房館山沖のスーパーライトジギング(以下SLJ)。
今回、ツリガチ取材班と釣りをするのは、1993年にバイクレース世界グランプリ250ccクラスでチャンピオンを獲得した原田哲也さん。
SLJ専用ロッドを携えての参戦である。
5月下旬に釣行したのは内房勝山港の勝山かかり釣りセンター。
和田五郎船長が目指した釣り場は南へ45分ほど走った館山沖の水深20~80m前後の根周り。
ここで釣れるのはカサゴ類、ハタ類などの根魚をメインにイサキ、マダイ、青物など。
何が釣れるか分からないためそのとき、その場で釣れる魚をターゲットにして楽しむことにした。
(上)世界GPチャンプ・原田哲也さんも参戦。アヤメカサゴがダブルヒット(下)45cm、1.4kgのアオハタが取り込まれた
出典:
ポイントに到着すると1流し目からアタリがあり、2流し目には早くもヨッシーがウッカリカサゴをキャッチ。
これを皮切りに根魚ラッシュに突入し、アカハタやアオハタが次つぎと釣れ上がり、船上は大盛り上がり。
日が高くなってからも勢いを増し、加えてアカエソ、アカササノハベラなど赤い魚がよく釣れた。
終盤、青物らしきがヒットし、18分間の攻防を繰り広げたヨッシー。
ラストは原田さんが値千金のマダイを釣り上げるなど文句なしの釣れっぷりで館山沖の豊かな海と、SLJのポテンシャルを知るには十分な釣行となった。
SLJの釣り方イメージ
様ざまな魚を狙えるのがSLJ。
手堅いのはハタ類やカサゴなどの根魚。
魚にじっくりとジグを見せるイメージでスローに誘う。
底から5~10mはゆっくり巻いたり、スロージャークやリフト&フォールで探る。
反応がなければ宙層はワンピッチジャークで青物狙いに切り換えたり、マダイを狙うならタダ巻きも効果的。
SLJタックル
しっかりと曲げてファイトを楽しみたいのであればSLJ専用ロッドがおすすめ。
扱いやすく、ジグのコントロールも容易だ。
(上)風まかせで船が動くドテラ流しでは、着底が分からないとただひたすらラインが出ていってしまう。80gほどの重めのジグから始めて、着底が分かれば徐々に軽くしていく(下)スペアのフックなども用意しておく
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素晴らしい一日、としか言いようがなかった。
船着き場に戻ると全員が名残惜しそうで、空は澄み、風は心地よかった。
「こんな日が終わらなければいいのに……」とだれかが言うと、「楽しかったよな」「小学生の夏休みみたいだよ」とだれかが同意し、全員が静かにうなづく。
5月26日、内房勝山港の勝山かかり釣りセンターからのスーパーライトジギング(SLJ)は、一点の曇りもない無邪気な喜びがあった。
まず、メンバーが素晴らしかった。ヨッシーこと吉岡進さんは、言うまでもないプロフェッショナル・アングラーである。
いつ、どんなときでも結果を出すという意味で、この男は本当にプロである。
そして彼はムードメーカーだ。
だれかの竿が曲がれば、「きた?きちゃった!?」と大声を上げ船全体を盛り上げる。
ヨッシーの釣友であるイチロウこと鹿島一郎さんは、いつもみんなにレッドブルやチョコを振る舞うアヤシイ人だ。
独自のアプローチで釣りに臨み、みんなと違うことをやって玉砕し、性懲りもなくまた奇抜な釣りで玉砕し……を延々と繰り返す。
見ていて飽きない。
トモキこと板倉友基さんは、クロダイのヘチ釣りの名手だ。
27歳の若き彼は、最近になって船釣りの魅力にハマったばかりだが、「えー、ボク、初めてなんですぅ」と無邪気な笑顔で並み居るベテランたちを油断させ、そのスキにバッタバッタと本命を釣りまくる。
ライターのタカハシゴーは、「永遠の初心者」。
船釣りの回数はそれなりに重ねているものの、ちっともうまくならないという才能において右に出る者がいない。
彼の不器用さを目にしただれもが、つい口と手を出す。
今回は気心の知れたこの4人で、内房のSLJに挑もうとしている。
すでに文句ない。
▲鹿島&板倉コンビのラストを飾ったのはアオハタのダブル
出典:
世界GPチャンプの原田哲也さんが内房スーパーライトジギングに参戦。
だが、4人だけではなかった。
集合時間の朝5時、船着き場に甲高い笑い声が響いたのである。
バイクレースファンならだれもが知るその声。
1993年世界グランプリ250ccクラスチャンピオンの原田哲也さんが、ひょっこりと登場したのだ。
タカハシゴーにそそのかされ釣りの世界に足を踏み入れた原田さんは、今やすっかり「リアル釣り人」だ。
モナコに居を構えている彼は釣り竿をつがえ、F1コースにもなる華やかな道を横断し、マリーナにズラリと停泊する巨大クルーザーを横目に堤防から釣り糸を垂らす。
仕事で日本にやって来るとたいていはめちゃくちゃ多忙だが、かなり強引に日程をこじ開けて強行釣行する。
原田さんは専用ロッド、ジャッカル・バンブルズエクストロSLJを購入したほどSLJに熱中している。
「ゲジゲジしたエサを使わないし(註=アオイソメのこと)、ジグは軽くてラクだし、結構釣れるし、工夫もできるし、サイコーだよ」と笑う。
SLJは確かにサイコーだが、勝山かかり釣りセンターの和田五郎船長もサイコーである。
朴訥とした人柄の五郎船長は、大の釣り好きだ。
隙あらば竿を握りたくてウズウズしている人だから、我われにどうにか釣らせようとしてくれるし、釣れれば本気で喜んでくれつつ、こっそりと自分の釣りの参考にするという、釣り人の鑑である。
こんな6人がそろっている時点で、面白くならないはずはない。
しかも館山沖の、根魚やマダイ、青物の実績ポイントを狙うのだ。
楽しいに決まっていた。
▲最後の流しで850gのマダイを釣り上げた原田さん。着底から10回ほどシャクリ、そこからはタダ巻きで誘うと食ってきた
出典:
だれが釣ってもうれしくなれる。これこそがルアー釣りの美点だ。
午前6時25分、釣り開始から2投目。
水深27mのポイントでミヨシのヨッシーがいきなりウッカリカサゴを掛けた。
ジャッカル・バンブルズジグTG SLJの40gだ。
数分後にトモのトモキがアカハタで続く。
こちらはジャッカル・フラッグトラップの60g。
その直後、チャンピオン原田にもアカハタが。
ヨッシーと同じバンブルズジグで、重さは60gだ。
ご満悦のチャンピオン原田が、「アカハタか。釣り終了だね!」と朗らかに笑う。
レースのルールでは、赤旗が掲出されるとその時点でレース中断となる。
それにかけての軽い笑いだ。
さらにヨッシーがウッカリカサゴを追加し、イチロウも上げる。
まさにモーニングサービスといった活況である。
これがSLJの魅力だ。
SLJ経験の浅いトモキやチャンピオン原田も、SLJの基本どおりに「底はネチネチ、宙層はワンピッチジャーク」を繰り出し、根魚のいるポイントに船が差しかかれば、瞬く間に釣果が出る。
釣り開始と同時に根掛かりからのPE高切れに見舞われ、リーダー結束にもたついたタカハシゴー以外は、全員が魚を手に写真に収まった。
そのタカハシゴーですら、30分後に40mのポイントでウッカリカサゴを手にしてニンマリである。
とりあえず、そこにいる魚がガチで釣れる。SLJならではの優しさが、仲間たちを癒す。
「じゃー、移動しよっかー」
「はーい!」
五郎船長ののんびりとしたかけ声に、全員がいいお返事で応える。
そうしてポイントを変えるたびに魚種が増えていく。
タカハシゴーが「なんだこりゃ」と訝しがりながら釣り上げたのは、カサゴとオコゼのような魚体の見慣れない魚だ。
「なんだなんだ?」
「毒があるかもしれないから、触らないほうがいいよ」
「触るなよ、触るなよ」
「それって、振り?」と、高まった船中のテンションを一瞬でかっさらったのは、ビシッと合わせて大きく竿を曲げたイチロウだ。
タカハシゴーが釣った珍魚・ヒレナガカサゴは瞬時になかったことになり、みんながイチロウの竿に注目している。
「おおーっ!? 鹿島さん、きちゃったんじゃないの~!?」と、ヨッシーが叫ぶ。
イチロウはアヤシイ笑顔を浮かべてじっくりリールを巻く。
ボコ~ンと浮かんできたのは、45cm、1.4kgもの良型アオハタだ。
「うお~!」
「すげ~!」
「やったじゃん!」
「かっけぇ!」と小学生男子的にシンプルかつストレートに盛り上がる船内。
だれが釣ってもうれしくなれるのは、大自然を相手に小さな金属片で挑むルアー釣りの美点だ。
ヨッシーがオジサン(オキナヒメジ)を釣り、トモキがナイスサイズのワニゴチを釣り、実にバラエティ豊かである。
金属のジグを使ってこんなに色んな魚が釣れるなんて……と、素朴な驚きがある。
あまりにバタバタと魚が釣れるものだから、20代後半~50代前半の小学生男子たちは、すっかり楽しくなってしまっている。
「お、AKH釣れた」
「アカハタね」
「お次はUKRKSGだ」
「えーと、ウッカリカサゴか」
「ESOだぁ」
「エソね。そのままじゃん」
この中にバイクレースの世界チャンピオンが交じっているかと思うと、なかなか痛快だ。
ワラサ、カンパチ、ヒラマサか……ヨッシーがガチで挑んだ18分間
SLJは、何が釣れるか分からない。
小さくて軽いジグに対して、フィッシュイーターたちのアタック率が非常に高いのだ。
つい口を使ってしまう、といった感じだ。
ヨッシーが開発に携わり、チャンピオン原田もご愛用のジャッカル・バンブルズエクストロSLJは、軽いジグを扱いやすいしなやかな竿先と、デカい魚が掛かったときにもへこたれないバットの強さを併せ持っている。
図らずもその真価を見せたのは、ヨッシーその人であった。
午前中の釣りを終え、なんとなく落ち着いた船中にドラグ音が鳴り響いたのは、午後0時20分。
タカハシゴーとチャンピオン原田がそろってアヤメカサゴを上げた直後だった。
ジャッ、ジャッジャジャッ、ジーーーーーッ!
ドラグ音は止まらない。
ヨッシーが全身を使って魚の引きをいなそうとしている。
竿は根元から曲がっている。
さすがに竿を立てず、真っすぐにしたPEで綱引きをするようなヤリトリだ。
「こ、これはガチでデカい……」とヨッシーが真剣な表情になる。
全員がジグを巻き上げ、ヨッシーのヤリトリに注目している。
「がんばれー(棒読み)」
「なんで感情がこもってないんだよ」
「ヨッシーはプロだからな。絶対に釣るはずだし」
「バラすなよ、バラすなよ。あ、これ振りじゃないからね」
「ひえ~」
大人の小学生男子たちは、猛烈な引きを目の当たりにして楽しくて仕方がない。
「たぶん青物だと思うけど……。なんだろうな。ああっ、今ハリがひとつ外れた気がする!プンッてなった。やばいよやばいよ」
「出川かよ」
「AMN、TRYだな」
「なにそれ?」
「アオモノ、ツレヨ」
「分かんねえよ」
長いヤリトリの間にくだらない話を繰り広げて緊張を緩和するものの、魚はちっとも上がってこない。
ある一定の深さになると、巻き上げを嫌がって走り出すのだ。
パワーもトルクもある。
ワラサか、カンパチか、ヒラマサか……。
18分経過したとき、「ああーッ!」とヨッシーが叫び、竿からテンションが抜けた。
「サメだ。サメにやられちゃった」とヨッシー。
ブッツリと切られたリーダーが虚しい……。
この日は全員が右舷に立ったが、トモのトモキが潮先で、以降のイチロウ、チャンピオン原田、タカハシゴー、そしてミヨシのヨッシーの順に魚がヒットすることが多かった。
釣り座で言えば、ヨッシーが最も不利な潮だったのだ。
そこでヨッシーは80gと重めのジグをチョイスしていた。
いち早くジグを魚の前に落とし、口を使わせる作戦を採った。
それが功を奏した……ものの、残念ながらサメに持っていかれてしまった。
が、ドラマはこれで終わりではなかった。
「色んな魚が釣れたし、ヨッシーがとりあえず推定青物を掛けたし、あとはマダイだな」と言いつつ臨んだ最後の流しで、チャンピオン原田の竿がゴンゴンゴーンとたたかれたのである。
青物をサメにやられて放心状態だったヨッシーの目が、瞬時に輝きを取り戻す。
「哲也さん、それマダイだよマダイ。慎重に、慎重に!」とテンション爆上がりのヨッシーに対して、当の本人は「なんだろうねえ?」と落ち着いている。
世界の頂点に立った男は、内房の魚にも負けないのである。
じっくりと巻き上げ、イチロウの差し出すネットに収まったのは、なんと本当にマダイだった。
思わずガッツポーズを見せるチャンピオン原田。
現役時代、レースで勝ってもそうそう見せることがなかったガッツポーズと底抜けの笑顔。
850g、自己記録のマダイを手に、「だって仕事じゃないもん、遊びだもん。ただうれしいだけで済むじゃん」と、釣りの本質を言ってのけた。
払い出していく潮で底取りが難しかったため、チャンピオン原田も80gのジグを使っていた。
そして見よう見まねで、ヨッシーのように着底から10回ほどシャクリ、そこからはマダイ狙いでタダ巻きをしていた。
それが結果的にドンピシャの誘いとなり、ズガガガッとマダイが食ってきたのだった。
根魚をそれなりに釣ったイチロウとトモキ、そしてタカハシゴー。
青物をサメにやられて悔しくてたまらないヨッシー。
そしてマダイを釣り上げて大満足のチャンピオン原田。
船上ではゲラゲラと笑いながらそれぞれに胸いっぱいになったこの日は確かに、終わりがきてほしくない小学生の夏休みそのものだった。
▲青物らしきがヒットしてラインが引き出される。ここから18分間のファイトが始まり、船長、同船者が見守る
出典:
#船宿インフォメーション
内房勝山港 勝山かかり釣りセンター
0470・55・2675
備考=予約乗合。
6時出船。
ほかカカリ釣りのクロダイも
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