ヨッシーこと吉岡進がエサ、ルアー釣りを問わず様ざまな釣り物にガチでチャレンジしていく連載「ツリガチ!」。
第12回は東京湾のタイラバ。
当地のタイラバ乗合は大潮やその前後の中潮回り限定で出船。
釣り場は観音崎沖の水深40~60m前後にある根周りで、エンジン流しで狙っていく。
釣り方は底まで落として一定の速度で10~15mほど巻き上げる。
これの繰り返しが基本となるので、だれにでもマダイを釣り上げるチャンスがあり、状況によりビギナーや女性の方ばかりにアタることもしばしばだ。
三浦半島新安浦港の長谷川丸を訪れたのは4月20日。
岩瀬船長が向かったのは観音崎沖の水深40m。
釣り開始から30分後、早くも船中1枚目となる2kgのマダイを初挑戦の女性が釣り上げる。
しばらくして100gのタイラバをゆっくり巻いていたヨッシーにも待望のアタリ。
そのまま巻き続けて、魚の重みが乗ったところでフッキング。
口に浅く掛かっていたり、掛かり所が悪いことも多いため、取り込むまでは油断できない。
いつバレるかとヒヤヒヤしながら巻き上げて1kg級のマダイが取り込まれた。
(左)ヘッドを逆付けにして狙い1kg前後のマダイを3枚キャッチ(右)人生初のタイラバで2kgのマダイを釣り上げた高橋万梨菜さん
出典:
Profile
よしおか すすむ
1982年生まれ。
ヨッシーの愛称で親しまれている。
一つテンヤマダイ、ライト系オフショアルアーを得意とする。
ジャッカルソルトプロスタッフ、シーガーインストラクター。
タイラバタックル
全長2m前後のベイトモデルで、竿先が軟らかく胴にかけて曲がり込み、元はしっかりしている専用ロッドがおすすめ
タイラバの釣り方イメージ
基本は海底まで落とし、着底したら糸フケを出さずに即、巻き上げに移り、10~14mほど一定の速度で巻き上げて落とす。
これの繰り返し。
アタリは巻き上げ中、または巻き上げ始めた瞬間にくることが多い。
アタリがきたらそのまま巻き続けて、力強く引き込まれたら竿を立てて合わせを入れる。
様ざまある釣法の中でも、タイラバはかなり独特だ。
その最大の要因は、等速巻きにある。
ひたすら、ただひたすら、同じ速さで巻く、巻く、巻く。
何がなんでも一定速でリールを巻き続ける。
それがタイラバだ。
底から10m前後巻き上げたら、再び着底させる。
そしてまた10mを一定速で巻き上げ、着底。
一定速で巻き上げ、着底。
延々これを続ける。
誘いやアクションとは無縁。
竿をシャクり上げることもなく、延々、一定速でリールを巻き続ける。
やってみれば分かるが、かなりストイックである。
同じ動作を続けているうちに、心が浄化されていることに気付くだろう。
さらにリールを巻き続けていると、やがては悟りの境地に到達する。
心に移りゆくよしなしごとはすべて消え去り、無になる。
リールを一定速で巻き続けることで、魂が浄化されるのである。
だが、その心の静寂が、突然、打ち破られる。
ガガガッというダイレクトなアタリ。
引き絞られる竿先。
「あっ……!」
心は揺れ動く。
釣りたい、という欲が頭をもたげる。
しかし、欲に負けてはいけない。
驚いてもいけない。
どんなにアグレッシブなアタリに襲われても、無の境地のまま、合わせることなく、一定速で巻き続けるのだ。
「ガガガッ」は強まったり、弱まったりしながら、しばらく続く。
魚がタイラバのヘッドやネクタイに襲いかかっているのだ。
だが、あわてず騒がず、一定速で巻き続ける。
忍ばせてあるハリにしっかりと掛かる、その瞬間まで──。
大潮後の中潮。吉と出るか、凶と出るかは、海のみぞ知る。
もどかしい。
だが、そこが面白い。
妙にハマる釣り人が多いのもうなずける、タイラバ。
我われツリガチ取材班が東京湾のタイラバに挑んだのは、4月20日のことだった。
朝から天気は悪かった。
冷たい雨と風がこたえる。
4月も終わりである。
「もう防寒着はしまってもいいだろう」と思いガチなタイミングだが、ツリガチ取材班をナメてもらっては困る。
「なんでこんな日に……」と、三浦半島新安浦港・長谷川丸の岩瀬正紀船長。
ヨッシーこと吉岡進さんも苦笑いである。
だが、東京湾のタイラバは大きな潮回りほど有利とされる。
4月20日は、大潮後の中潮。
吉と出るか、凶と出るかは、海のみぞ知る。
我われとしては、ひたすらタイラバを巻くしかないのである。
船長は、「前日もマダイは船中5枚上がったよ。うちキロアップは2.9kgを頭に3枚。外道も色いろ釣れて、五目を達成したんだ」と、明るい情報を教えてくれた。
……と思ったら、「ただ、ちょっと掛かりが浅いんだよね……」と、遠い目をしている。
落として巻くだけのタイラバは、動作としてはものすごくイージーな釣法だ。
しかし、そこは魚相手。
ひと筋縄ではいかないのも確かである。
7時15分に港を出ると、わずか20分ほどでポイントに到着した。
水深は40m前後。
潮が効いているので、タイラバのヘッドは100gが中心だ。
すぐにツリガチ取材班若手のホープ、トモキが「アタった!」と声を上げる。
ヨッシーも「おれもアタった!」と続き、イチロウにもアタリが出た。
が、だれにも掛からない。
「食いが浅い」という船長の言葉が、総員の脳裏をよぎる。
いやな予感を軽くブッ壊してくれたのは、ツリガチ取材班と同じ右舷トモで釣りをしていたうら若き女性アングラーだった。
「タイラバは初めて」という彼女はお父さんに連れられて長谷川丸に乗り、朝もハヨから冷たい雨に打たれ、それでも真摯にタイラバを巻き、開始35分後に2kgのマダイを釣り上げたのである。
ツリガチ取材班、色めき立つ。
「これだね」
「これだよ」
「あるね」
「あるよ」
何が「これ」で何が「ある」のか不明だが、ツリガチ取材班は目くばせして静かにうなずく。
これは、ある……。
そして、実際、あった。
45分ほど経過したところで、ヨッシーが「アタった、アタった、アタった!」と叫び、「っしゃー!」と竿を曲げたのだ。
だが直後に「あーっ、バレた! ホントに食いが浅いな……」
だからと言って、あまり対策もできない。
「段差の付いたハリのほうが、掛かりがよくなる可能性がある。やれることといったら、それぐらいかなぁ」と渋い表情だ。
(上)タイラバが大好きという板倉さんも800g級を釣り上げた(下)赤やオレンジのヘッドでマダイが釣れている中、チャートカラーでも上がった
出典:
あえてチャートを使って釣る。これもヨッシーの戦略どおりだ。
左舷ミヨシで、マダイが上がった。
根に差しかかり、そこに魚がいれば、それなりに反応はするようだ。
左舷ミヨシの方は、オレンジのタイラバを使っていた。
それを見てすかさず動いたのはトモキである。
動いたとは、有り体に言えばマネをしたわけである。
トモキはサッとオレンジのタイラバに替えると、すぐにツリガチ取材班にとってのファースト・マダイを釣ってみせた。
「マネはガチで大事だよ」とヨッシーが言う。
「マネこそは、乗合船のだいご味。釣れてる人に合わせるのは鉄則だよ」
そしてついにヨッシーがタイラバでマダイを釣った。
その直後に、ライターのタカハシゴーもマダイを釣った。
いずれもジャッカル・TGビンビン玉スライドヘッドNEOの100gを使用。
いいポイントに差しかかったようだ。
タカハシゴーが釣ったヘッドのカラーは、ヨッシーから「これ、使ってみてよ」と渡されたハデなホットチャートだった。
「最初は『冗談だろ?』と思ったよ」とタカハシゴー。
「みんながオレンジ系で釣っているのに、オレにはチャートだよ?これはからかいだな、と直感したね」
一方、ヨッシーの見解は、まるで正反対である。
「ゴーさんにチャートを渡したとき、『……え?』って顔をしたのが分かった(笑)。
でも、チャートって、たまにすごい爆発力を発揮することがあるんだ。
おれも、ほかが釣れていないのにチャートだけ釣れるっていう経験をしてる。
今はみんながオレンジになったから、あえてチャートを使ってもらったんだ。
チャンスがあるかな、と」
タカハシゴーが釣ったマダイは、ヨッシーの戦略どおりだったのだ。
「タカハシゴーが釣った」と言うより、「ヨッシーに釣らされた」と言うべきだろう。
ちなみにツリガチ取材班のイチロウは、この日、タイラバのヘッド+ネクタイの代わりにオレンジイソメを装着していた。
タイラバというよりは、ズバリエサ釣りである。
本人はあくまでも「タイラバのネクタイをイソメにしただけ。断じてエサ釣りではありません」と言い張るのだが……。
それにしても、金属的ヘッド&ビニール的ネクタイと無機質のカタマリであるタイラバに比べて、有機質全開のオレンジイソメは圧倒的に有利ではないかと思える。
匂い、動き、味とすべてにおいて本物なのだから、マダイへのアピール力はレベチでもおかしくない。
ところがこの日のイチロウが図らずも証明したのは、エサよりもタイラバのほうが釣れる、という事実だった。
ヨッシーの快進撃はまだまだ続く。サイズアップ狙いが見事にハマる。
イチロウにアタリがきた。
釣れたのは、カサゴだ。
追加のアタリは、なんとタチウオだ。
ヨッシーはタイラバからTGビンビンスイッチに替え、マダイを2枚追加した。
しかもビンビンスイッチでの2枚目は、1.3kgの食べごろサイズである。
差は明確だった。
この日、イチロウが本命を手にすることはついになかった。
マダイは、生きたエサではなく、タングステンを選んだのである。
イチロウは「アタリは6回もあった。でも食いが浅かったから、イソメをちょっと食いちぎって反転して逃げてしまう」とコメントした。
「次は食いちぎられないように、イソメに針金でも仕込もうかな」と笑う。
ヨッシーがタイラバからスイッチに替えたのは「気分(笑)」とのことだったが、出船前に船長から「昨日も食いが浅かったけど、ビンビンスイッチはよく釣れた」という話を聞いていたので、確かめてみたようだ。
「100gのビンビンスイッチの2本バリは段差ありの仕様。食いが浅くてもどこかには掛かってくれるね」と段差バリの効能を確認した。
ヨッシーの快進撃は続く。
「ビンビンスイッチで釣れることは分かったから、今度はサイズアップを狙おうかな。やり方は色いろあるけど、とりあえずタイラバに戻して、ネクタイをボリュームアップしてみよう」オレンジゴールドのヘッドに、オレンジのスカート。
そしてすぐに、「キタキタ~!」と叫び、1.8kgのマダイを釣ってみせた。
完全に戦略どおりだ。
「結果的には4枚。アタリが続かなかったから、正直よく分からないままだった。難しいコンディションだったね。それでもポツポツと釣ることができたのは、タイラバだからじゃないかな。エンジン流しの船が、いいポイントに差しかかったときにチャンスが訪れる釣り。落として巻いて、を繰り返すタイラバはそれだけ広い範囲を探れていることになる。魚へのアプローチ回数が多いんだ。そう簡単にアタリが出る釣りではないから、カラーやネクタイをこまめに替えたくなる。でも、仕掛けを船に上げている時間がもったいないのも確かだ。じれったいし、何かやりたくなる気持ちも分かるんだけど、とにかくタイラバを、ハリを、海に入れておくのが大事なんだ。アタリがきてからの乗せ方にもコツがある。食い方に応じて待ったり、早めに聞き合わせたり……。でもそれよりも、とにかくタイラバを海の中に入れておいて、魚に見せることが最大のポイントかな」
ヨッシーから手渡されたチャートのタイラバを、タチウオに切られてロストしてしまったタカハシゴーは、再びヨッシーのススメでTGビンビン玉スライド雷流ヘッドを手にした。
カラーはオレンジゴールド。
そしてタックルボックスをゴソゴソし、「みんなオレンジだとつまんないから」と、ピンクのネクタイとスカートを選んだ。
そして見事にマダイを釣り上げた。
トモキは「ショッキングピンクのネクタイなんて見たことないですよ~」と笑い転げた。
そんなことはない。
ピンクだって実績のあるカラーだ。
そして何よりも、タカハシゴーは不器用ゆえに、仕掛けの交換を面倒がる傾向が強い。
本人いわく、「『みんなオレンジなのにピンクは恥ずかしいなあ』と思ってた。でも、交換するぐらいならタイラバを海に入れておいたほうがいいかなって」と、自らのめんどくさがりを正当化した。
しかし、「とりあえずタイラバを海の中に入れておく」という姿勢が、彼に2枚目のマダイをもたらしたのも事実である。
「それも正解なんだよ」と、ヨッシー。
いつしか共用のクーラーはにぎやかになり、天候も回復していた。
「大ダイも出るからね。また遊びにきてくださいよ」と船長が言った。
タイラバから「TG ビンビンスイッチ」100gにチェンジし、底から5m巻き上げたところで食ってきた
出典:
「ヨッシーに釣らされた!」「釣れたでしょっ!」
出典:
#船宿インフォメーション
三浦半島新安浦港 長谷川丸
090・6021・5919
備考=7時15分出船。
大潮や中潮限定、出船予定日はHPで確認。
ほかタチウオ、アジへも出船
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隔週刊つり情報(2022年6月1号)※無断複製・転載禁止