オレにとって、しょう油といえば女優安田成美である。
青春まっただ中、二十歳のころにテレビCMで何回も見た安田成美は、確か某社の丸大豆しょう油を手にしていた。
沖釣り探偵〝K〟
沖釣りにまつわる謎や疑問を解き明かすフィッシングライター。
持ち前のフットワークの軽さで難調査を解決!
釣りの腕前はヘッポコな永遠の23歳。
監察官〝K〟
丸ブチメガネの奥に潜む鋭い眼差しで探偵Kを監視する目付役。
センベロ酒場とパチスロをこよなく愛するエディター。
基本データ#FILE01・そもそも、しょう油とは?
しょう油は大豆、小麦、食塩を原料として麹菌などの微生物による発酵、熟成、圧搾といった工程をへて醸造される液体調味料のこと。
しょう油が関東で広く使われるようになったのは江戸時代。
上方(かみがた=大阪)から流入した食文化で、江戸時代中期になると関東でも盛んに生産されるようになった。
大豆の常陸(ひたち=茨城)、小麦の下総(しもうさ=千葉)と武蔵(むさし=東京と埼玉)、塩の行徳(千葉)といった原材料の産地が間近だったことにより、下総の野田と銚子がしょう油の2大産地として栄えた。
利根川と江戸川の水運により江戸への流通の便がよかったことも発展を後押しした。
この2大産地以外にも、関東のほか全国各地にたくさんの醸造所が点在し、現在も独自のこだわりでしょう油を醸造している。
しょう油は釣り人の必需品!
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刺身しょう油が気になった
丸大豆と脱脂加工大豆の違いなどまったく気にしていなかった当時は、大人の色香漂う安田成美しか見ていなかった。
だのに、そんなオレが今、しょう油を語ろうとしている。
釣った魚を調理したり、食べたりする中で、当たり前のように使っているしょう油。
刺身にはこのしょう油、煮付けにはこのしょう油と、料理に合わせてしょう油を使い分けている人もいるだろう。
ここんところ釣りへ行けていないので冷凍庫にストックしておいたヤリイカや買ってきた魚で刺身を楽しんでいる。
そんな晩酌を少しでも盛り上げようと、スーパーでおいしそうな卓上しょう油を買いあさってきた。
いやはや、世の中には色んなしょう油があるもんだ。
ちなみに最近の卓上しょう油のほとんどが酸化防止の密封ボトル入り。
常温でもしょう油のおいしさが保てる優れモノである。
んで、そんな卓上しょう油に「刺身しょう油」ってのがあるじゃない?
アレって、なんで「刺身」しょう油なんだろね?
気になったから刺身しょう油を数本買ってきて味比べしてみたんだけど、塩味、香り、濃さ、舌触りは、似て非なり。
一体全体「刺身」っていうネーミングの根拠って、なんなんだろう?
しょう油で食べる刺身の王道といえばマダイ
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アジ、イナダなどの青物もしょう油!
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イカ類の刺身は文句なしにしょう油がうまい
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まずはしょう油のお勉強
刺身しょう油の話の前に、まずはしょう油についてちゃんと知っておきたいよね。
本醸造ってナニ?
さいしこみしょうゆってナニ?
特選ってどこが特選なの?
などなど。
こんなにも身近な調味料なのに、分かってないことが多すぎる(オレだけ?)。
そこで、しょう油について調べてみた。
しょう油は、JAS規格(日本農林規格)で種類や等級、醸造方式によって定義、分類されている。
その定義や分類を分かりやすくまとめてみたのが上の4つのカコミ記事。
まずはそちらに目を通してほしい。
基本データ#FILE02・主なしょう油の種類
こいくち(濃口)しょうゆ
大豆または脱脂加工大豆を蒸したものに、ほぼ等量の炒って砕いた小麦を交ぜて醸造する。
関東で最もベーシックなしょう油で、窒素分1.5~1.6%、食塩分16~17%。
うすくち(淡口)しょうゆ
色が淡いしょう油で、素材の色合いや持ち味を生かす料理に向いている。
高濃度の食塩で仕込んでいるため、食塩分が18~19%と、こいくちしょうゆに比べて塩分濃度が高い。
たまり(溜)しょうゆ
ほとんど大豆だけを原料とし、大豆を蒸して作った味噌玉に麹菌を植え付けて仕込む。
主に中部地方で醸造、愛用される。
窒素分が1.6~3.0%とうま味が強いのが特徴。
さいしこみ(再仕込)しょうゆ
しょう油でしょう油を仕込む製法で醸造される。
原価が高く、醸造期間も長いうえに生産量が少ないため、ほかのしょう油に比べて単価が高い。
たまりしょうゆ同様、うま味が強い。
しろ(白)しょうゆ
小麦を主原料に醸造されたしょう油。
低温、短期間発酵により、うすくちしょうゆ以上に発酵を抑えて作られる。
色、うま味ともに控えめで、素材の色合いやうま味を生かしたい料理に向く。
基本データ#FILE03・しょう油の等級
しょう油は、JAS規格によって含有成分量(窒素分など)や色度(色の濃淡)により、特級、上級、標準の3階級が定められている。
さらに特級よりも窒素分(うすくちしょうゆとしろしょうゆは、無塩可溶性固形分※1)が10%以上高いものを特選、20%以上高いものを超特選と表記できる。
なお、JAS認定工場の製品にJASマークを付けるか否かは任意とされている。
※1)無塩可溶性固形分とは、塩分を除いた固形分を指す。
いわゆるエキス分のこと
特選、超特選と表記のある製品は、窒素分であるうま味成分のグルタミン酸やアミノ酸が多く含まれている証
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基本データ#FILE04・本醸造とは?
JAS規格で定められた醸造方式による分類で、しょう油は本醸造、混合醸造、混合の3つに分類されている。
原料と微生物の力だけで醸造されたしょう油が本醸造で、しょう油の総生産量の8割をこれが占める。
一方、醸造過程でアミノ酸液などを加えたものが、混合醸造や混合となる。
関東で作られるほとんどのしょう油が本醸造
出典:
基本データ #FILE05・丸大豆しょう油ってナニ?
一般的なしょう油が、脱脂加工大豆(油を搾った後の大豆)を使用するのに対し、丸大豆しょう油は、丸のままの大豆を使用して醸造される。
総じて脱脂加工大豆で仕込んだしょう油はキレがあってうま味が強いのに対し、丸大豆しょう油はまろやかな風味と深みが特徴とされる。
◇
で、しょう油のことをしっかり学んだところで、本題に移ろう。
いつも、何気なく使ってきた刺身しょう油。
ところがJAS規格には刺身しょう油の定義も分類も見当たらない。
じゃあ、刺身しょう油って一体ナニモノなんだ?
可能な限りの刺身しょう油を買い集め、買ってきた刺身しょう油の製造元へ問い合わせをしてみると、今回の調査に4社が協力してくれて、商品の掲載許可とアンケートに答えてくれた。
在宅ワークだの、テレワークだのってなご苦労が多い中でのご対応。
しょう油メーカーの担当の方には感謝の気持ちでいっぱいデス。
ということで・・・御社の刺身しょう油が刺身しょう油と銘打たれている理由、教えてください!
今回の調査結果・刺身しょう油ってなんなんだ!?
刺身しょう油には明確な定義がなく、各メーカーが刺身に合うと思う味わいのしょう油を作っている!
《キッコーマン》いつでも新鮮おさしみ生しょうゆ
・名称:さいしこみしょうゆ(本醸造)
・キッコーマンのこだわり
「通常、食塩水で仕込むところをしょう油で仕込む“二段製法”にて製造しています。また、火入れ(加熱処理)せずに仕上げた生しょう油です。素材を生かす鮮やかな色、刺身の味を生かす超特選規格の豊かなうま味と柔らかな塩味。これらがこの刺身しょう油の特徴です」
《ヤマサ》さしみしょうゆ
・名称:こいくちしょうゆ(本醸造)
・ヤマサのこだわり
「新鮮な刺身を一層おいしく味わうために、うま味が高い刺身専用しょう油として1977年に誕生しました。赤身、白身を問わず、刺身のおいしさを引き立てます。刺身はもちろんステーキや寿司、納豆、漬物など、毎日の食卓に欠かせない『つけ・かけ』専用の超特選こいくちしょう油です」
《フンドーキン》あまくておいしいさしみ醤油
・名称:こいくちしょうゆ(本醸造)
・フンドーキンのこだわり
「甘さとうま味のあるトロリとしたこいくちしょうゆです。当社では、
・色や味、香りが濃厚
・刺身に絡みやすい
・魚の臭みを和らげる
・刺身のうま味を引き立てる
といった特徴から、刺身に最適なしょう油を刺身しょう油としています」
《フンドーキン》さしみ醤油甘口仕立て
・名称:さいしこみしょうゆ(本醸造)
・フンドーキンのこだわり
「さいしこみしょうゆを使用したJAS特級相当の品質です。化学調味料を使用せずに、通常のこいくちしょう油より色が濃く、まろやかな香りとうま味が特徴の甘いしょう油です」
《寺岡有機醸造》寺岡家のさしみ醤油<寿司用>
・名称:さいしこみしょうゆ(本醸造)
・寺岡有機醸造のこだわり
「丸大豆・小麦を主原料としたしょう油に、 さらにもう一度、丸大豆・小麦の麹を加えて仕込む “二段仕込み製法”の天然醸造しょう油です。淡白な白身、赤身の刺身、そのいずれにも向いている刺身しょう油です」
ちなみに“寿司用”と銘打った理由をたずねてみると、「しょう油自体が、サラッとしているため、寿司にしょう油が付き過ぎないことと、ネタの味を殺さない特徴を持っている」からで、「しょう油の甘みと塩味のバランスを整えることで赤身、白身のいずれにも合うしょう油に仕上がった」ことから“寿司用”としているそうだ。
刺身しょう油の定義について分かりやすく答えてくれたのはキッコーマンのご担当者。
どおりで同じ刺身しょう油でも各社で味わいが違うわけだ。
メーカーによって刺身しょう油が、さいしこみしょうゆとこいくちしょうゆに分かれていたり、大分県のフンドーキンが甘さにもこだわっていたり、寿司用と明記するこだわりを見せる寺岡有機醸造の商品もレアでおもしろい。
探偵”K”の報告書
沖釣りにどっぷりハマって早25年。
釣ってきた魚は、何はともあれ刺身にして食らうのが好きで、たいていの魚は刺身で食べてきた。
そんなとき、いつだってしょう油がそばにいた。
もはや、しょう油なしには刺身を語れないくらいである。
刺身好きの釣り人であれば、しょう油にはこだわりたい。
だからこそ今回は、しょう油職人たちがこだわって作った刺身しょう油に注目してみた。
もちろん、たとえ刺身しょう油と銘打たれていなくても、刺身に合うしょう油はある。
だから、自分好みの刺身しょう油を見つければいい。
自分好みの刺身しょう油探し。
楽しいことうけあいである。
ちなみに、だししょう油とか土佐しょう油といった商品もけっこうあるが、これらは「しょうゆ加工品」に分類される。
原材料にかつお節や昆布などのだしが含まれると加工品となるそうだ。
そんな加工品にもおいしいしょう油がある。
昨年訪れた高知の回転寿司店には、たまりしょう油と土佐しょう油が置かれていたっけね
出典:
ダイジェスト動画も公開中
隔週刊つり情報(2020年6月1日号)※無断複製・転載禁止