高層マンションに飲み込まれそうな豊洲運河。
下町情緒が残る汐見運河。
そんな運河の奥に吉野屋はある。
当宿でスタッフとして働いてきた人気者が船長デビューしたと聞き、ちょいと足を運んでみた。
カマちゃん・釜井 昌二(かまいしょうじ)
東京都江東区出身のフィッシングライター。
アトリエぷらり おさかなイラストレーター。
A.T.LAB フィールドアドバイザー
深川吉野屋は昭和23年創業の老舗船宿
江戸時代より深川と呼ばれる現在の東京都江東区木場に船宿吉野屋はある。
吉野屋創業の歴史は戦前に遡る。
太平洋戦争の最中、現店主、吉野吾朗船長の祖父にあたる初代は、所有する船で小名木川の清掃業を営んでいた。
昭和20年に深川漁業協同組合へ加入して貝の採捕や刺網といった漁業へ転向。
その3年後に船宿吉野屋を創業する。
当初は職漁と遊漁を兼業していたものの、昭和30年代に入ると徐々に船遊びや遊漁が主軸となっていく。
背景には漁業の衰退と高度成長期の波があったのだろう、昭和後期には釣り船に加え屋形船なども出すようになる。
とりわけ昭和40~50年代の8~11月はハゼの天ぷら船が大人気で、溢れんばかりの客でごった返したという。
「日曜ともなれば、客ばかりでなく日雇いの男衆がたくさん手伝いにやってきて、飯場でゴロゴロと寝ていたもんです」と吾朗船長は当時の活気を振り返る。
平成の時代に入ると、釣りのターゲットは様変わりする。
昭和の中~後期に盛況だった近場のキスやカレイ、ハゼは鳴りをひそめ、高速かつ大型船で遠征する釣り物が始まった。
タチウオや青物を相手に商売することなど、初代は予想だにしなかったはずだ。
現在は5隻の遊漁船で東京湾の旬魚を追いかけ、ルアー釣りにも尽力。
いわゆるゲームフィッシングの分野でも多くの釣り人を楽しませている。
そんな歴史ある吉野屋には現在、大森健吾船長(32)、高橋郷(別名、万次郎)船長(34)、佐藤義船長(20)と3人の船長が常駐している。
今回、クローズアップするのは、佐藤義船長。
昨年12月に単独デビューしたばかりの新米船長で、1月の成人式にパンチパーマで出席した(させられた!?)吉野屋のホープである。
そのパンチパーマも、3カ月たった今はもはやアフロ崩れの鳥の巣状態。
まるで懐かしのモンチッチのようで、妙にかわいらしい。
遡ること8年前。
小学6年生だった義少年は、運河の岸辺でシーバス釣りをしていた。すると突然、「そんなんじゃ釣れね~よ」と、警戒船業務をしていた吉野吾朗船長から声をかけられた。
「じゃあボートでシーバスを釣らせてくださいよ」と返すと、「あとで木場にある吉野屋に来い!」と言われたという。
その日の夕方、一緒に釣りをしていた友人と吉野屋へ出向くと、ちょうど釣り船が戻ってきたところだった。
ひとまず片付けの手伝いを命じられ、いつしか気づいたら吉野屋の仲乗りになっていたという。
朝の受付は恥ずかしがり屋さん?3代目の吉野吾朗船長が担当
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高層マンションが立ち並ぶウォーターフロントをすり抜けて東京湾へ
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(上)狭い運河を真剣な面持ちで船を後進させる義船長(下)船長衆が肥える理由はこのどんぶり飯にあり
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(左)東京湾で一番カップラーメンが似合う健吾船長(右)若き新米船長の未来に幸あれ
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釣り人からも親しまれるゆるキャラ船長
義少年の就きたい職業ランキングは第1位が鳶、第2位が大工、第3位が船頭だったという。
16歳のときに鳶にも大工にも弟子入りしたのだが、どちらもすぐに挫折。
ところが、吉野屋の仕事は性に合っていたようで、これまた気づいたら船舶免許を取り(取らされた!?)昨年、船長デビューを果たした。
先輩船長たちの指導で立派に独り立ちした佐藤船長は現在、ライトアジ船を担当している。
取材に出かけた4月3日は、川崎~鶴見沖のポイントへ10人の釣り人を案内。
まずは川崎沖の定番ポイントで良型のアジを釣らせ、食いが渋った後は鶴見沖の穴場ポイントでポツポツと釣果をのばした。
顔が小さくて、胴が太っちょな中アジは、食にこだわる釣り人のハートを鷲づかみにする。
のんびり楽しむ人、無我夢中で釣りまくる人、親子でほのぼの釣る人。
色んなムードで楽しむお客さんが乗船したこの日の釣果は、18~32㎝のアジが12~57尾。
イシモチとカサゴ、コノシロも交じった。
ねじり鉢巻きに法被姿で操船してくれた佐藤船長は吉野屋のゆるキャラ的存在で、同僚ばかりでなく釣り人からも親しまれている。
初対面の私もすっかり彼のファンになってしまった。
「スタッフがにぎやかに、楽しそうに仕事をしているほうが、来てくれたお客さんは楽しいですよね」と吾朗船長は話す。
そんな親方の社訓をしっかり受け止めて、にぎやかに笑い、いじり合う3人の若手船長たち。
きっと今朝もどんぶり飯をかっ込んで、元気ハツラツ働いているに違いない。
この日は川崎~横浜沖の水深20~30mを狙った
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顔が小さくてコロンと太った良型。引き味、食味ともに抜群だ
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お子さんの面倒をみながらお父さんも健闘
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お父さんとライトアジ。いい思い出になったかな?
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ちょっと照れ屋でのんびり屋の佐藤義船長
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普段はタチウオ船を担当する大森健吾船長
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「キャプテン万次郎のおしゃべりフィッシング」でおなじみのマゴチ船担当、高橋郷船長
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中アジを主体にこの日のトップは57尾
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刺身はもちろん塩焼きやフライと何にしてもおいしい
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船宿information
乗船の流れ
①スタッフの指示に従い、船宿手前の駐車場に車を止める②釣り座は先着順。乗船する船の釣り座へ荷物を運ぶ③受付で会計や仕掛けの購入を済ませる④下船後は流しで手や道具を洗うことができる
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吉野屋の設備とサービス
(左下)5隻の遊漁船を所有し、多くの釣り人を受け入れている(右上)待合所は広びろ。のんびりくつろげる(右中)船宿には女性専用トイレを設置(右下)砕氷がたっぷり用意されている
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(上)ルアーや仕掛け類はひととおり販売している(中)各釣り物のレンタルタックルを常備(下)ライフジャケットの貸し出しあり
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(左)船宿から桟橋へのスロープ(中)潮位に合わせて乗船できるステップを設置(右)ロッドホルダーがたっぷり装備されたルアー釣り向け新造船も
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吉野屋の釣り物とシーズン
吉野屋のライトアジ仕掛け例
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隔週刊つり情報(2020年5月15日号)※無断複製・転載禁止