アホって、よくないですか?オレは素晴らしいと思う。
無駄なことに夢中になって、意味なんか考えず、ひたむきに突き進む。
小学生男子的な純粋無垢なアホさが、オレは好きだ。
カモシ釣りが好きだという庄之助丸の秋葉庄之助船長にその理由を尋ねたら、「あの、えと、うーん、そうだな、あっ、えっと・・・、分かんね」と答えた。
サイコーである。
最大限の敬意を込めてオレは言いたい。
「アホや」と。
さんざん考えて「分かんね」って!
しかし、「分かんない」は真実なのだ。
好きであることの理由をペラペラ語る人がいたら、「それホントは好きじゃないんじゃないの?」と思う。
語れる=文字化できる=理屈で考えているからだ。
いやいや。
好きなんて感情はそう簡単に言葉にできるもんじゃない。
自分でも得体の知れない熱いものが心の中で渦巻き、ごちゃごちゃモニョモニョしてる状態が「好き」なのだ。
ウソをつけないアホな庄之助船長が、オレは好きだ。コワモテの巨体だが、こういう男は絶対モテる。
実際、庄之助船長の奥さんは美人で優しくおしとやかで非の打ちどころがない(としか思えない)のである。
ライターとしては得体の知れない「好き」の熱い渦をなんとか言葉にしなければならない。
庄之助船長にしつこくカモシ釣りが好きな理由を聞くと、「うーん、うーん、すいません、そうですね、あの、あっ、そうだ、ダイナミックでエキサイティングなんですよ、うん。うまく言えなくてすいません・・・」
オレは感動してしまった。
ダイナミックでエキサイティング。
ああ、これほど的確にカモシ釣りを表現したのは、600万年の人類史上で庄之助船長が初めてだ。
素晴らしい。
ダイナミックでエキサイティング。
いやもう、カモシ釣りはそうとしか言いようがない。
アホ同士の異様な連帯感が庄之助丸を包み込む。
男子たるもの、一生に一度はカモすべし。
ということわざはない。
でも、オレは声を大にして言いたい。
カモしてくれ、と。
一度でいいからカモしてみてくれ、と。
万一カモシ釣りを好きになれなかったら、あなたは極めて常識的だ。
まっとうな社会人であり、幸せな結婚生活を送り、出世し、そこそこのお金を貯め、素敵なマイホームを建て、それなりの老後を送るだろう。
もしカモシ釣りに少しでも面白みを見出してしまったら、あなたは相当ヤバイ。
まっとうな社会生活は送れず、結婚生活は破綻し、会社では左遷され、お金はギャンブルで使い果たし、老後の安泰もないだろう。
・・・そんなことはない。
でも、それぐらいの破壊力が、カモシ釣りにはある。
すさまじい釣りだ。果たして、「釣り」のカテゴリーに入れていいものだろうか。
格闘技のほうが近いのではなかろうか。
いや、どちらかと言えば労働か。
いやいや、労働と呼ぶにはアホすぎる・・・。
アホ・・・。
いい意味で底抜けにアホだ・・・。
1年前に経験しているはずなのに、カモシ釣りは本当にスゴかった。
釣り座に腰を下ろすと、足元にクーラーがある。
「ん?」と思いつつちょっと足で触れてみると、ずっしりと動かない。
「なんだなんだ?釣れなかったときのお土産がすでに用意されちゃってんの?準備いいなあ」。
いそいそフタを開けようとすると、なぜかヌルリと滑る。
「んんっ?」とアヤシミながら開けてみると、これでもかこの野郎、とばかりにギューギューにサンマミンチが詰め込まれているのだ。
不漁続きで今や高級魚扱いになったサンマが。
「サンマここにいたか!」と感動しながらそいつをFRP製の四角いタルにベシベシと放り込み、ホースから海水をダバダバと流し込む。
そしてヒシャクでネロネロネロネロとかき混ぜる。
タップン、ポッチョンと音がするぐらいの柔らかさになったら、巨大ポンプでズヒュッ、ヌポッと吸い上げ、ブシャーッとカモシ袋に詰める。
どんなに気を付けても、袖やら太もものあたりにサンマミンチが付着する。
ウゲゲ、グゲゲと思うのは最初だけだ。
すぐ慣れる・・・どころか、楽しくなってくる。
大人に許された合法的泥遊びなのだ。
ネロネロして多少あちこち汚れたって、船の上にうるせえかーちゃんはいない。
あ、「かーちゃん」ってのは実在の人物じゃなく、清く正しくまっとうな大人全般を指す比喩ね。
船上総員サンマミンチにまみれてしまえば、同じサンマのミンチである。
違った。
同じ穴のムジナである。
アホ同士の異様な連帯感が庄之助丸を包み込む。
こんなに爽やかなことはない。
豊潤にして芳醇なサンマの脂で、もう何もかもヌッタヌタになればなるほど、心がスッカスカになっていくのだ。
「カモシ釣りをやったことないヤツ、ざまーみろ!」と思う。
何がざまーみろだかよく分かんないけど。
「オレたちはもうその先にイッっちゃってるもんねー!」と誇らしく思う。
どこにイッちゃってるのか分かんないけど。
当日のカモシタックル
細ケェこたぁどうでもいいんだぁ!巻け巻け、釣れ釣れ!
サンマミンチを詰めたカモシ袋付きテンビンと100号のオモリ、そして10mのハリスを海中に投じたら、庄之助船長の指示ダナ(今回は海面から20~30m)+ハリス分を目安に落とし込む。
そして、ドアリャーッ、ダラッシャーッ、カモシング!とブレンバスターをキメる。
思いっ切りのけぞって竿を振るのだ。
海中ではブワッ、ブワワッとサンマミンチが盛大にまかれ、海域中の魚という魚が「!」と鼻をピクつかせ、目を見開くだろう。
どっちも魚に使う表現としては不適切な気がするが、細ケェことはどうでもいい。
何しろ魚が大好きなサンマミンチの煙幕が広がっているのだ。
そしてエサもまたサンマである。
こんなに分かりやすい釣りもない。
魚が寄るとしか思えないミンチをまき、魚が食うとしか思えないエサを使うのだ。
釣れるとしか思えないじゃないか。
釣れなかった。
11月9日、初回釣行は見事に船中ホゲッた。
大ベテランの高橋漁労長(偶然同姓)がイナダを釣ったが、あとはシ~ン、である。
信じられない。
いや信じる。
これが海だ。
そして、全魚類が愛してやまない(と思われる)特コマセ、サンマミンチをまき、全魚類が食べたくてしかたない(と思われる)特エサ、サンマの切り身を付けて釣れない場合は、何をやってもダメなんだと諦めがつく。
そういう日もあるさ、と。
だが、別の日ならどうなんだ、という話だ。
実は昨年9月の初カモシングの際にも、オレがかろうじて小型マダイを釣ったものの、蒼一郎はイサキのみ。
船中では高橋漁労長(去年もいた!)を始めベテラン勢のおかげで型を見たが、苦しい戦いであった。
そして今年11月9日もホゲッたわけだ。
海が非常に悪かったのは確かだが、カモシ釣りに対して一抹の不信感が漂う。
「釣れんの?」と。
「実はサンマミンチ、全魚類にそんなに好かれてないんじゃないの?」と。
「ネロネロ、ブシャーッ、ビチビチッ、タプッ、ダバダバッと勇ましい効果音の割に、魚には効いてないんじゃないの?」と。
すいませんでした。
カモシ釣り、スゴかった。
再戦日は11月15日だった。
その2日前の庄之助丸では教官と呼ばれるやはりベテランが「11枚獲ったぉ」との情報もあり、こりゃさすがにイケんじゃねえの感があった。
前日がシケて出船できないほどだったのが若干気がかりだし、出船後もウソをつけない庄之助船長が「シオカタが悪いですね」と、シオカタが何だかよく分からないけどとにかく何かがよくないらしきことをボヤいてはいたが、天候もよろしく、全般的には釣れそうな雰囲気だった。
そしてついに、ズキューンと絞り込まれたのだ!
竿が。
オレの・・・じゃなくて、蒼一郎の。
蒼一郎が竿を立てる。
ものすごく美しい弧を描く。
庄之助船長と沖藤編集長がコーフン気味に「セクシーですねぇ!」「セクシーだねぇ!」と叫ぶ。
タンタンッ、と段のある引き。
「こりゃ間違いなくマダイだな。たぶん」「うん、マダイだ。おそらく」と、自信満々に逃げ道を作りながらみんなが言い、実際に蒼一郎が上げたのはキロサイズのマダイだった。
その直後、沖藤編集長の置き竿がドヒュンとひん曲がる。
バヒュン、ドスン、バコン!
散発的ではあったがみんなの竿が曲がる曲がる、マダイが上がる上がる!
いや~、ついにカモシ釣りの本領発揮、爆発的な釣れっぷりを目の当たりにしてしまった。
まさにダイナミック&エキサイティングなカモシング!
いったんスイッチが入ればバクバク釣れる。
一つテンヤの繊細さとはまったく逆の豪快さ。
竿の引き絞られ方からすると、食い気の立ったマダイはサンマの切り身をズッポリと吸い込んで一気に食っているようで、もうこうなると釣り堀のコイ状態だ。
ズーン、ズーン、ドカーンと小細工なしで引き絞られる竿を見ているのはとても気持ちいい。
細ケェこたぁどうでもいいんだぁ!食うつったら食う!釣るつったら釣る!ドーン、ほら食ったっぺ!巻け巻け、釣れ釣れ!
このシンプルさに魂が浄化されるんだよね。
盛り上がったねぇ、オレ以外。
・・・釣れねぇんスけど。
オレ。
昨年は1人だけマダイが釣れず、今年の初日はシケの前にギブアップ。それだけに1枚目のマダイが釣れた瞬間は、本人も船長も最高にうれしかった。
出典:
(右)マダイだよっ!幸先よく本命を上げた漁労長と、我われを助けてくれたベテランカモッシャー・高田さん。(右)一度釣れればあとは簡単、 工夫するたびにマダイが応えてくれた。
出典:
タカハシゴーの船釣りあるある~カモシ釣り編~
おめでとう!ところでさ、何か気付かなかった?
11時半の沖揚がりまで、残り20分ほどだったか。
「ん?」とアタリらしきものを感じた。
「ん?」と巻き上げてくると、マダイが付いていた。
蒼一郎がタモ入れしてくれた。
・・・釣れた。
コシの強い竿を使っていたので、よく分からなかった。
でも、タモに収まったのは1.5kg級の美しい良型マダイだ。
やっ・・・たぁ・・・。
なんだか釈然としない。
何で釣れたんだ・・・?と、大ベテランの高橋漁労長がニカニカとやってきた。
「おめでとう!ところでさ、何か気付かなかった?」
「はひ?何だろう・・・」
「エサをさ、オレがこっそり付け替えといたんだよ。釣れそうにないエサだったからさ」
「ひいいいいぃぃっ!」
確かにオレは長くエサを替えておらず(めんどくさがった)、サンマの切り身はすっかり白くふやけていた。
そして実は蒼一郎と沖藤さんも、エサをまめに付け替えると釣れる、という法則を編み出していた。
にもかかわらず、ふたりともオレには教えないつもりだったらしい・・・。
カモシングは確かにダイナミック&エキサイティングだ。
だが、釣果を出すにはやはり繊細な技が必要とされるのである。
エサ付けのみならず、誘いの方法も色いろあるようだ。
蒼一郎に至っては、ミンチのまき方を工夫し、探見丸を駆使して魚を動きを見据えながら極めて慎重にタナ合わせをしていた。
蒼一郎、4枚。
オレ、1枚。
うーむ、とオレは唸った。
ダイナミック&エキサイティングにだまされた。
実は繊細で奥が深いカモシング。
これってまさに、庄之助船長の人柄そのものだ。
カモシングも庄之助船長も、すっげぇ魅力的なんだよね。
理由?分かんね。
次回は蒼一郎のようにマダイ竿で釣りたいと思う父。そのとき漁労長がやってきてつぶやいた。
出典:
蒼一郎のためになる手記
カモシ釣りの爆発力を見せつけられた一日
朝イチからサンマのミンチをネロネロして、サンマエサにハサミを入れて背骨を取るところから始まったカモシ釣り。
セクシーにサンマミンチを海中でまいて魚を寄せます。
でも、アタリはなく、困った・・・。
最初にサンマミンチをまいたら、エサを動かさず放置する作戦にしてみました。
7分ほどたったときに、モゾモゾ、グーン!軽く合わせると、きました!いい感じの重量感と、よい引きです。
1kg半ぐらいのマダイをゲットし、ひと安心しました。
その後はアタリがなく、しばらく静かに。
庄之助船長の指示ダナは、付けエサが底から3mぐらいにくるものでしたが、ミンチをまいても、探見丸に映る反応は底に着いたまま。
そこでこっそり、底から2mの所に付けエサがくるようにしてみました。
なるべく動かさないように待つこと10分。
入れ替えようかな・・・と思ったところでモゾモゾッときて、マダイ!
でも、その後はアタらなくなり、ヒラマサのポイントへ移動。
でもここは不発で、またマダイのポイントへ。
で、再び付けエサが底から2m上にくるようにしてみると、魚影がその高さに上がってきました。
やる気満々!でも、アタらない。
そこで、1m誘い上げてみるとガツガツッ!やる気のあるアタリでマダイをゲットできました。
そこからはミンチをバンバンまいて自分の所に寄せて食わせるカモシ釣りらしい展開に。
そして沖揚がり直前、「タナボケしたかな?」と思い1m上げてみたら、ズドンとマダイ!最後の最後に、カモシ釣りの爆発力を見せつけられました。
庄之助船長が舟盛り用に親ゴー&蒼一郎丸の旗を作ってくれました。
出典:
(左上)大漁のあとはソッコーでウロコ引きと内臓出し。(左上)当日食べる分をササッとサクに。ここまで帰宅してから一度も座っていない。(左下)漁労長からいただいたヒラマサは刺身と握りにしてみました。 めちゃうま!(右下)庄之助船長直伝の舟盛りにチャレンジ!めっちゃ楽しい~!
出典:
(左)翌日は小ダイでプチ舟盛り。漬けも乗せてみました。(右)そしてマダイとヒラマサでしゃぶしゃぶ。あらからダシを取りました。
出典:
潮が変わったとたんにスイッチが入ったけど、それに対応するのは釣り人のワザなんだよな~。
出典:
【隔週刊つり情報(2019年12月15日号)※無断複製・転載禁止】