「アタリが見えた!」
バレーヒルの大西正人さん、西田健一さんと、イカ先生こと富所潤さんが関東の遊漁船にティップランエギング(あるいはスパイラル釣法、またはティップエギング)を紹介したのは2010年。
その最初の取材で道具を借りて1杯目のアオリイカを釣ったとき、私は思わず叫んでしまった。
竿先が入ったり、戻ったり、よく動いて多彩。
しかも合わせた瞬間の手応えといったら・・・面白すぎる!
「竿先がよく動くから、走る、ティップがランする、ということでティップランと呼んでいます」
大西さんと西田さんから名の由来を聞いたとき、納得すると同時に難解な名前が流行るかなぁ?とも思った。
が・・・あれから9年、ご覧のとおり、ティップランの名は関東でもすっかり定着、当初は1,2軒だった乗合船も今は各地に見ることができる。
ラインの先は餌木のみ。アタリはダイレクト、取り込みはシンプル
出典:
船はいわゆるドテラ流しで、風を舷側に受けながら、風と潮に任せてポイント上を流れていく。
釣り人は道糸が払い出す舷に並んで釣るため、席による釣果の差が出にくい。
船が流れないときにはキャスト角の広いミヨシとトモ有利だが、ウデの差を覆すほどの要素にはならない。
ティップランエギングタックル
カッコ内は中村勇生さんの仕様
タックルはラインの先に餌木だけ
ここではタックルの特徴を紹介する。
道糸とリーダーの先には30~40g、号数に換算して8~10号強の専用餌木のみ。
この餌木で底ダチを把握して釣っていくため、ライン放出の抵抗が少ないスピニングタックルが基本となり、道糸も細めが有利。
気を付けたいのは道糸とリーダーのバランスで、道糸がPE0.6号ならリーダーはフロロ2.5号までにしないと、根掛かりの際に高切れしやすくなる。
入門であれば、トラブル対処などで安心感があるPE0.8号とフロロ2.5号の組み合わせがおすすめ。
これは一つテンヤと同様だ。
また、PE1号とフロロ3号の組み合わせであれば、根掛かり時の餌木回収率が高くなる。
この場合は底ダチを取りやすいよう一回り重い餌木を使う。
ベーシックスタイルは「横方向」へのスライドを意識する
釣り方の概要は図①のとおり。
①着底、②即1m離して、③巻きシャクリ3~4回(5~6回でもいい)、そして④止め(ステイ)。
ここでアオリイカが餌木を抱くと、竿先にアタリが伝わる。
④で止めているとき、餌木は船の流れで引かれている。
この横方向のスライド(泳ぎ)が、ティップランならではの誘いで、強みと言われている。
そのため、ステイの間は竿先を無駄に動かさず、船の揺れを吸収しつつ、いかに自然に泳がせるかが肝心だ。
そして、実釣でだれもが最初に突き当たる壁が・・・①の着底が分からない。
これは餌木を重くすることで対処するのが一番。
次いで③の巻きシャクリも悩む人が多い。
もし、うまくできなければウイリーシャクリの要領で、「シャクって、下ろした分、ハンドル回して、再びシャクって・・・」でもOK。
慣れてきたら、スピードを上げてみよう。
このとき、慌てて動作が雑になると道糸がフケて竿先に絡んだり、餌木が跳ねすぎてテーリング(絡む)するので、ていねいに、が基本だ。
また、ステイの時間は短くて5秒、長くて15秒が目安だが、乗りが遠いときは20秒以上待ってからアタることもある。
力を入れ過ぎず、シャッ、シャッ、シャッと3回巻きシャクリをしてピタリとステイ。静と動でメリハリを付けるのが基本
出典:
名手・蓮見さん。ティップランの基本形は、より繊細で無駄のない釣り方になっている
出典:
そして根掛かりのジレンマ
ティップランで避けて通れない問題が根掛かり。
まず船長が荒根の中で投入合図を出さないことが大前提だが、海底に何の変化もない所ではアオリイカの釣果はのびない。
ティップランが大好きな船長は根掛かりを軽減させるべく、根の間や、根から離れるように船が流れるよう船を回してくれる。
それでも、海底には小さな岩や海藻、ヤギ類があるため根掛かりは起こる。
これら海底形状以外の根掛かりの原因としては・・・①の着底が分からない。
着底が分からず道糸を出し続けたのちに糸を張ってシャクるとカンナで海底を引っ掻くようなもので、あっけなく根掛かる。
そこで「トン」と着底が分かるまで餌木を重くして、着底、即、離せば根掛かりは軽減する。
しかし、餌木が重すぎると④のステイで、どうしても餌木が下を向きがちで、横方向に自然に泳がせることができない。
実際、竿を止めて餌木を引っ張るとき、軽い餌木ほどイカの乗りがよく、アタリも大きく伝わってくる。
整理するとこうなる。
・着底が分からないと根掛かるが、餌木を重くするとイカの乗りが悪い。
・餌木を軽くするとイカの乗りはいいが、着底が分からない。
この、ティップランのジレンマを解決する方法は、これまで「軽い餌木でも着底が分かるようウデを磨く」あるいは「ラインを細くする」であった。
このテクニックを習得、上達することが楽しみでもあるのだが、ここに、新たな解決法が登場する。
それが、中村勇生さんの「聞き誘い」ティップランだ。
中村式・聞き誘い
①餌木を沈ませる間はあまりラインを余分に出さない
②巻きシャクリは30~45度幅で3~4回
③シャクリ終えたらピタリと止める。中村式ではここで餌木が下を向く感触がコクンと伝わってくればなおよし
④一定のテンションを保ちつつ頭上まで5~8秒かけて聞き誘い
⑤アタリがあったら竿を下ろし、チョンと誘って再び聞き誘い。アタリがなければ再着底させ、2セットで再投入
中村式「聞き誘い」は、ティップランのジレンマに対するソリューションか
簡単に説明するなら、中村勇生さんの「聞き誘い」ティップランは、シャクった後に竿を止めるのではなく「竿を持ち上げて餌木を上へ動かす」。
図②の③がそれで、基本形では「横」へ餌木を泳がせるイメージだったが、中村式は「縦」に聞き上げる。
これまで、タブー視さえされてきた「餌木を引き上げる」方法で、中村さんはバシバシ釣ってしまう。
中村さんは先入観にとらわれず、多くのイカがツノが縦になっていても釣れているのだからと、マルイカ釣りのように聞き上げていくうち、この釣り方を完成させた。
ただし、実際にまねてみると、そう簡単には釣れない。
その場合は次の点に留意してみよう。
②でしっかりシャクリ、止めた瞬間に餌木が「コクン」とお辞儀するのを感じ、③で「テンションを一定に保つように聞き上げる」ようにする。
この、テンションを一定に保つ聞き上げが、中村式の核心。
雑にならぬよう、じっくり練習してほしい。
聞き誘いのキモを中村イカ語で表現すると「ライブ感」。
餌木が生きているような感触、抵抗で引くことだ。
これは潮の速さ=抵抗の大きさ=重さにも関係しているようで、手応えが軽いときには聞き上げを早く、手応えが重いときにはゆっくりと、を基本に、聞き上げの速度を探り、ライブ感を求めていく。
するといずれ、聞き上げている竿先にアタリが出る。それは船の上下動に左右されない明確な動きで、迷うことなく反射的に合わせられるものだ。
重い餌木でのバーチカルエギング
餌木を引っ張り上げるため、聞き誘いでは餌木の重さがアタリの出方を大きく左右することは少ない(図②A)。
横スライドにこだわらず、縦に聞き上げて釣ると思えば、重くてもいいし、実際、中村さんはそれでよく釣る。
それどころか、ほとんど船下狙いとなるような縦=バーチカルの釣りで、中村さんだけが連発することもある。
10月15日の取材日がまさにそうで、船下を縦に往復させる中村さんの独り舞台になる時間があった。
こうなるともはや、着底が取れる範囲でできるだけ軽い餌木、というティップランの基本とかい離する。
着底の分かりやすい餌木、ときに必要以上に重い餌木で船下へズドンと落とし縦方向に誘ってくる。
これでいい。
これが何を意味するかといえば、素早く着底させ、どんどん再投入できるため、常に新しいポイントに餌木を落とすことができるうえ、底ダチを取りやすいために根掛かりを減らすことができる(図②B)。
しかも、図②Bの上下図を見比べていただければ分かるのだが、重めの餌木を使った聞き誘いで頻繁に入れ直すと、一定時間内に海中を餌木が動く距離が非常に長くなり、アオリイカに出会うチャンスも増える。
中村さんは着底~聞き誘いを2セット、多くても3セット繰り返したら餌木を回収して再投入しているのだ。
(左)のけぞるまで誘い上げることもしばしば(右)周りが道糸を斜めに出す中、早い再投入で船下を狙い連発する中村さん
出典:
中村式「聞き誘い」は、根掛かりとイカの乗りが相反する、ティップランのジレンマを解決するひとつの手立て、今風にいえばソリューションである。
しかし、だれもが聞き誘いで快調に釣れるかといえば、そうではない。
基本形の釣り方で、できるだけ軽い餌木で底ダチを取るのが難しいように、聞き誘いで重い餌木を使ってアタリを出させるよう誘い上げるのも難しい。
つまり、どちらにせよ、ティップランはテクニックを磨かなくては釣果はのびない。
ただし、上達すれば、必ずその答えがアタリとなって返ってくる。
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隔週刊つり情報(2019年11月15日号)※無断複製・転載禁止