近い将来、クルマが完全自動運転化され、ステアリングを回す感触が日本人の手から失われても、手釣りでマダコを海底から引き剥がす感触は受け継がれるだろう。
江戸、明治、大正、昭和、平成、令和。長く続く釣法には必ず「理」がある。
それはたとえば大ダコに負けない強度、根掛かったときの回収率、小ダコがハリの間を抜ける構造など。
歳月を費やすことで選別し尽くされ得られた合理性は、たくさん釣れる、とか、面白い、とか、かっこいい、といった表面的なものではない。
それはもっと、人と、自然に思慮深いもの。
そう、今風にいえば、サスティナブル=持続可能性だ。
私はそれを敬愛の念を込めて「味わい深さ」と呼びたい。
出船前に船長が釣り方をレクチャー。これをよく聞いておけば安心
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手釣り糸を通して海底を探るマダコとの「糸電話」。今日は音信不通か、それとも・・・
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今日のマダコは公平だ
「そんなこと言ったって、私マジで苦手なんすよ、タコ!」
4月23日、解禁日恒例行事として私に付き合わされている三石忍が、朝日を反射して白く輝く第二海堡の壁を背に半ギレ(冗談)して言う。
たしかにそうだ。
腕の差が出る釣りを得意とする彼女にしてみれば、マダコの手釣りは真逆。
過去の釣果は決して悪くないのだけれど、苦手意識があるのも無理はない。
その横では、身体を「く」の字に折り曲げて小づく相蘇さん。
あまりに前のめりで、落ちないか心配だ。
「昨年の12月の最終日に来て以来、今日が待ち遠しかったんです」
上気した顔は、まるで子供が待ちに待った遊園地に来たかのようだ。
タコ釣りが苦手な女。
タコ釣りに惚れた男。
マダコ釣りというものは往々にして、どちらかに釣れない悪戯をするものだが、解禁祝いか、第二海堡ですぐに2人とも小ダコを手にした。
釣れたときの安堵感とも言うべきうれしさは、三石も、相蘇さんも同じ。
気持ちが軽くなって三石は脱力し、相蘇さんはさらに前のめりになるのだった。
「一昨年、昨年よりは釣れましたけど、第二海堡は大ダコが出なくなりましたね」
長年マダコを狙い続けている石井広一船長の言うとおり、最近、春先の第二海堡はパッとしない。
それでも1時間でここ数年では好成績となる11杯を釣り、南沖へ走った。
ダーッと南下して向かった富津南沖では水深10m台を流す。
すると、ここからが本番と言わんばかりに胴の間、トモ、ミヨシで1人、また1人とマダコを釣り上げ、2杯目、中には3杯目を手にする人も見え始めた。
上潮が速く、底はゆっくり。
こんなときはテンヤを投げると余分に糸が出てオマツリの元。
船長は船下に落とすようアナウンスする。
トローッと船が流れつつ1時間、海堡と同じく船中11杯が上がり、型は1㎏近い良型が中心になってきた。
ここから船長はピンポイントでこまめにポイントを探っていく。
根のきつい場所では根掛かり注意のアナウンスを入れ、そうでないときには糸を出して小づいて大丈夫と伝える。
いったいどれほどのポイントがあるのか想像も付かないが、空振りはなく、どの場所でもマダコは乗ってくる。
まずは恒例の第二海堡から。潮の向きと強さに応じてポイントを変える
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昨年の最終日からこの日が待ち遠しかったと言う相蘇さん
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マダコ釣り3回目、 前回オデコの分を取り返す3杯!
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こちらもマダコ歴3回目で2杯、1.4㎏
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普段はカワハギ、初のマダコに分からない!と言いつつ良型2杯
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解禁日、川崎丸2号船での最大は沖揚がり直前に伊藤さんが釣り上げた2㎏。タコ釣りは最後まで分かりません
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1㎏前後が多く見られた
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女性がよく釣れるワケ?
時間の経過とともに分かってきたことがある。
それは「今日のマダコは女性が好き」ということ。
三石忍をはじめ、当日は4名の女性が手釣り糸を持って小づいていたのだが、全員、無事にマダコを釣り上げている。
それもミヨシの三石以外は胴の間で、3杯、2杯、2杯だ。
この点について私は迷信めいた喜びを感じていたのだが、三石は違った。
いわく、今日は潮が効いていないせいかマダコの抱きが浅い。
ゆえに、小づきや合わせが急だと掛からない気がする。
その点、今日乗っている女性は全員小づきと合わせがしなやか。
このことと釣果は無関係ではない、ような気がする。
古い表現だが、思わずヒザをたたいてしまう話だ。
なぜなら、この日釣った人全員を撮影していて、タモの中でマダコがテンヤから外れることが非常に多く、今日は抱きが浅いなあと思っていたのだ。
恐るべし。
富津のタコ女。
だが、彼女の慧眼がはそれだけではなかった。
乗りが遠のいたと感じるとビニール片を切りだし、テンヤの上のスナップに結んだ。
いわゆる飾り、あるいはアピールアイテムのたぐいで、手釣りのマダコ釣りではこれぐらいしか工夫の余地がない。
というわけで、三石はビニール片を付けて小づいていたのだが、何も変わらない。
そりゃそうだ、先糸に縛ってもズレるのでスナップに結んでみたけど、目立たないもんね・・・。
彼女はそう思った。
そこで一計を案じた。
「テンヤを底から1mぐらい持ち上げて、ユラユラさせたんです。え?時間?30秒、いや、1分ぐらい宙でユラユラさせて、目立たせてから、ゆーっくり下ろしていくと、底に着いたときに、ムニュッて乗るんすよ」
そう語る三石忍の網袋には、あれま4杯のマダコがくんずほぐれつしている。
「その方法で何杯釣れたの?」
「4杯中3杯ですよ」
なんと後半に釣った3杯すべてが「宙からの誘い下げ」での「着乗り」だと言う。
ちなみに三石によれば、この釣り方ではほとんど底で小づかず、宙でアピールしているそうだ。
ちょっと待て、それ、すごくないか?
「そうすか?根周りだと、やるじゃないですか」
まあ、そうだけどさ、平場で意識して宙で誘うって、普通、やらないよ。
「タコに目立たせるにはいいんじゃないかって思っただけですよ。でも、やっぱりタコは苦手!」
あっけらかんと笑う三石忍。
その横では釣り始めと変わらぬ情熱で、マダコに惚れた男・相蘇さんが一心に小づき続けている。
こうして令和3年のマダコ解禁日は、沖揚がりの12時を迎えたのであった。
友人のサポートをしつつさすがの4杯
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トップは前半~後半までコンスタントに釣り上げて4杯
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海堡周りで幸先よく1杯
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前半にバタバタッと3杯、その後沈黙。タコ釣りは不思議
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胴の間で複数釣る人が多かった
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潮変わりのチャンスに無事捕獲
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マダコは海面から出た瞬間に落ちる。取り込みは必ずタモ入れしてもらおう
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知っ得!当たりガニと根掛かり回避
一度乗ったカニはボロボロになっても乗ってくる。
まことしやかに言われる話だが、実際に何回も目にしている事実。
マダコが乗ったカニとテンヤを失わぬよう根掛かりを避けるコツは「糸を立てて小づくこと」と「金属的な感触が伝わってきたら底から離すこと」だ。
君は当たりガニを信じるか?
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Tackle Guide
川崎丸のタコ釣り道具はすべて無料貸し出し。
根掛かりで紛失したときは「紛失代」としてテンヤ1個(カニ付き)1000円、またはテンヤチケット(1枚3個分2300円)で清算する。
当日のマダコ仕掛け
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隔週刊つり情報(2021年6月1日号)※無断複製・転載禁止